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⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

SNSのミームで「それで生まれたのがこの俺ってわけ」と赤ん坊が自分を指差して言うというのがあるが、この映画はその鬼太郎版である。

「世界一の高さの電波塔が来年できる」と水木が言っているため、舞台は1957年くらいと思われる。驚いたことに、水木が勤める血液銀行というのは実在したらしい(GHQが日本における輸血の感染症対策のために始めた)。

日本のサブカルチャーのいろいろな影響を感じさせる作品だ。

作画には浦沢直樹と山本直樹の、物語展開には横溝正史(『犬神家の一族』、『獄門島』)、綾辻行人(『暗黒館の殺人』)、京極夏彦(『魍魎の匣』、『狂骨の夢』)、『『ルー=ガルー 忌避すべき狼』)の影響を感じた。

終盤に出てくる血桜は『新世紀エヴァンゲリオン』のコア化した世界、狂骨が華麗に舞い暴れる場面は『犬王』のラストシーンを想起させる。

特に時貞翁の孫娘沙代へのレイプは、綾辻行人『暗黒館の殺人』を思い出させる。そして、呪術的人体実験は『魍魎の匣』だ。

幽霊族のゲゲ郎の飄々とした佇まいが京極堂と榎木津の中間っぽいのも偶然ではないだろう。彼らよりはだいぶ人間味があるが。

しかし物語が提示するシステムの肝は「老害が未来ある若者の生き血を啜って生き続けている」なので、一歩間違うと若者対老人の対立構造に落とし込まれる危うさを持っている。特に時弥の身体を奪ったあたりは、悍ましさの極みである。このあたり、「自分の寿命を超えて生き続けることを願う醜い老人」を悪者としてきた日本のアニメや推理小説のパターンを踏襲しているため、新味はない(『ルパン三世 ルパンVS複製人間』然り、前述の『暗黒館の殺人』、『ルー・ガルー』然り)。時貞翁が水木にかける言葉「いい背広を着て、いい女を抱け」「底辺底辺。ああはなりたくないものじゃのう」は俗物すぎて、ああいった永遠の命を求める異常者には相応しくないように思える(自分以外の人間になどその程度で充分と思い、実際周りがそれで従ってきたからかもしれないが)。

むしろエンドロールにおいてモノクロで示された包帯ぐるぐる巻きで戻ってきたゲゲ郎、墓場から生まれた鬼太郎、鬼太郎を殺さなかった水木に、エモーションが詰まっていたように思えるので、水木と彼を相棒と呼んだゲゲ郎の二次創作ファンアートがSNSに溢れたのは必然なのだろう。

時貞翁が鬼太郎の母を「やたら美形じゃった」、「お腹の子も余のものじゃがの」と言ったこと、水木が(記憶を失った設定とは言え)「バケモノの子だ」と言ったことから、「もしかして鬼太郎は時貞の子…?」と思わせる話運び。今時の考察勢への目配せも忘れていないが、生まれてきた子は果たしてゲゲ郎そっくりなのであった。

自分は京極夏彦、綾辻行人好きであり、ああいった話運びにも慣れているので楽しめたが、沙代、時弥、汽車の中で咳をしていた女の子周りの描写が納得いっていない人も多いらしい。確かにフィクション中の悍ましさへの耐性がある程度求められる物語ではある。子どもが容赦なく搾取される話なので、コナン、ドラえもんと同列に子どもに薦められる話ではないことは確かだ。18歳以上になってからの鑑賞をお薦めしたい。
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