せいか

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のせいかのネタバレレビュー・内容・結末

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
1.0

このレビューはネタバレを含みます

05/12、Amazonビデオにてサブスク視聴。
ゲゲゲの鬼太郎シリーズは漫画にしろアニメにしろほぼほぼノータッチというか、小さい頃はたまに観ていたくらいのほどほどの距離感で親しんでいた程度。特にアニメシリーズが今の絵柄になってからはまるで分からん状態なので、もう代変わりしているのは知っていたものの、キャストの声の具合にいちいち戸惑いながら観ていた。
視聴理由も、放映直後(というか直前か)からTwitterですごい話題作になっていたので、何がそんなにウケてるのか観てみようかなという程度の物見遊山気分による。
ぐだぐだ長ったらしく書いているので最初に感想の概要を言っておくと、全体的にちぐはぐさが目立つもので、もっとどっしり構えてそのテーマをやってほしかったなあというものになります。


視聴前から、なんだか何となく昭和の作劇っぽいとか、なんだかものすごい横溝的世界観(※戦争との絡め方含む)とかそういうのはTwitter上から垣間見えるものもあって想像はついていたし、そこは確かにがっつりあったと思うのだけれど、それでもさんざネタバレっぽいのをあれだけ流し見てきても思ってたよりも内容がなかなか違っていたので、こういう話だったのか……!という感じでシナリオを追っていた。あらすじ自体はだいぶ王道なところがあるというか、全体的に何らかの元ネタを感じるというか、どうにも言語化しきれない既視感の連続みたいなところだったとは思う。ほんとなんかいちいち、なんか、なんか知ってる……!みたいなところがあったような。パクリとかそういうのじゃなくて、パロディーとかオマージュ、たまたま既視感になってるだけとかそういうやつだとは思うけれど。昭和の映画とかもっとちゃんと観てきてるだけでもそういう意味でも楽しい箇所はあったのかもなあと思う。特に冒頭の東京での描写のあたりとか。
あと、そうでなくても割とちょこちょこ現実の歴史とクロスオーバー設定しているところはある。輸血に関することだとか。だからそのへんもあったり、あとは比喩的な意味でも、妖怪の血を人身御供で人間で中和して作っていた製剤が既に国内で長らく使われていたこととかもある種の毒の意味合いで展開するないしはまとめの段階で皮肉的に何かしらの形でまとめるのかと思っていたけれど、そこに関しては特にもう一展開というものはなかづたのはちょっと肩透かしな感じがした。戦争要素とかにしろ、作中で扱われてるタネをもとにテーマとしてまとめる上でそのへんももっとどうにかするのかと思っていた。

先に書いたように別にゲゲゲに興味があるわけではないどころかむしろ疎いほうではあるのですが、さりとて中途半端に知識はあるので、メインキャラクターの水木さんの来歴(というか戦争体験描写部分)がだいぶ水木しげる氏のものを下地にしてるっぽいのだなあというのは読み取れはした。
あと、前に『アニメと戦争』(藤津亮太、日本評論社、2021年)を読んだときに、アニメシリーズを通して一つのシナリオ(「妖花」)をやや設定を変えながらも反復して扱うことで戦争に対する本作の距離感を論じる箇所があったことなども頭の端に置きつつ鑑賞していた。本作でも戦中及び戦後というのがかなり重要な位置にあったので、「妖花」でやってきたようなことの補強をしてるところがあるのかもなあと思った。
本作では未来を託されるはずの子供やうら若き女性、少女(※汽車の中で咳き込んでいた子)もドシドシ陰謀の中で死んでいくところなんかもあって、そういうところがまた未来を背負って生まれることになる鬼太郎に繋がっていってそこが際立つことになってしまうのだけど、それはともかく、最終的に「語り継ぐこと」をそうして犠牲になった少年が願っていたりだとかにしても、やはり「妖花」的なところを意識してるのかなあとちょっと思った。もしかしたらちゃんとゲゲゲや他の水木しげる作品に親しんでいるともっと思えるところはあるのかもしれないけれど。
ただ、語り継ぐことに関しては、これを唯一託された人間である水木は覚えたからと記録を破って破棄してしまったり、忘れないでと言われたのもいろいろあって忘れてしまったりで、結局忘却してしまったのだと(少なくとも作中描かれる範囲では)したのが切なかった。戦争中も玉砕しろと言われながら生き残り、その生にしがみつきということをしてきた男が再びそれを演じて大惨事が起きた村の唯一の生き残りとなって、覚えていたかったことも忘れてしまってとか。EDで多少の救いはあるけども。こういうところも、たぶん、戦後日本というのを意識しているのだろうなあと思ったりはした。その記憶はいつまでも続くものではないのだ。この点、終盤で苦しみ彷徨う霊魂もとい狂骨になっていた少年の魂に数十年後の現代から目玉のおやじとなったゲゲ郎が、今も日本はこういう状態にあるのだと語り聞かせるという息苦しさを語るのとかにしてもそうだけども。未来を担うこともさせてもらえなかった、世界の仕組みや大人の都合で命を摘まれた子供に未来の現実を語り、それでもなおいかに儚くとも語り続けることを、後に託し続けることをやめはしないというまとめ方はなかなかに熱いものがあったと思うし、この村の後始末を子供世代である鬼太郎が猫娘を連れてやっていたというのもなかなかに示唆的だった。
打算的に生きることが染み付いた水木がけして善人ではないことだとか、別にそもそも未来というものを広い視野という意味では前向きに意識もしてなさそうだったことからスタートして、エンディングに向かっていったのもそういう描写もあって良かったなあと思う。
凝り固まった古狸が中心になって世界も未来も侵食し続けて周囲も歪み続ける中で高楊枝しているその在り方を変えようとするのとかもなかなか皮肉が籠もっていたと思います。なあ、日本。

あと、本作はPG12指定でなかなかのグロテスク描写もあったというか、PG12ってここまで見せられるんだなあと思った。だいぶグロテスクな近親相姦要素とかも直接的ではないけどあったりとかもするし。現在の鬼太郎シリーズのメインターゲット層がどこにあるのかは知らないけれど、ギリ小学校高学年生が観れるかどうかのラインにしたのは挑戦的な気もする。結構展開がハデになるあたり(つまりいつもの鬼太郎のアニメのノリというか?)とかは正直一気に話の重さが誤魔化された気がしてしまったりもして、全体的に見るとやや曖昧な作品内容になってしまっているような気もする。話が難しくなる懸念からそうなってるのかもしれないけれど、もっとどっしり構えても良かったんではないかしら。本作のシナリオバランス、大人向けという意味でも子供向けという意味でもどっち付かずで、テーマの掘り方にしても結局曖昧にしてしまっていると思う。本レビューでうだうだ感想として語ってはいるけれど、正直、まとまりはそこまで良くない。捌けてはいると思うけど、強度を持てているかというと弱いというか。
村サイドの登場人物たち一人ひとりがそれぞれに閉塞感や不自由さを抱えながらもそれぞれに地獄を演じる役者にもなっているという構造ができていたのですが、そこもライトにし過ぎてる感じがする。並行してゲゲ郎とどうのこうのみたいな展開とかもしつつ真相に迫るのでどうしても薄味にしないととっ散らかりがすごいことになるからなんだろうなあというのも分かるのですが。最終的に「未来」というものに繋ぐ目標があってそれぞれのラインが向かっているので、お話を捌けてるといえば捌けてるのだけども。

というわけで、ドが付く鬼太郎認知度ライト層でも概ねほどほどに楽しんで観た作品ではあったのだけれど、世間が具体的に何をあそこまで狂っていたのかまではよくわからなかったような気もする。テーマに関してもまとまってはいるけれど微妙に踏み込みが甘いところはあって、深くまでは刺さらない感じだった。妖怪という忘れ去られていく存在とか、人間がそれに対して傲慢に力付くで御してしまおうとするところとかも大いにもろもろの皮肉構造と重ねるつもりがあるのだろうとも思うけれど、そこにしても後半からドシドシくるドンチャン要素に巻き込まれて曖昧になっていたような気がする。

それはさておき、清濁(ほぼ濁)併せ呑んで精神的な範囲で密かに通じていそうな村長さんと長女みたいな関係性はだいぶ好みでした。
ヒーローになろうとしたけどなれずに狂った次男さんとかもかなり好感度は高い。
だいぶしんどい立ち位置に居た本作のヒロイン的立ち位置の沙代さんはもう少し丁寧に描いてほしかった気もする。怒涛の話のまとめに巻き込まれた感じがした。
たぶん、マロにしたって進行上あんな感じだったけど、いろいろ抱えていたものはあったはずだし。
というわけで何が言いたいかというと、この村の地獄をもう少し深いところまで観たいなあと思える作品でした。それらとても長編映画でまとめられるものではないのだろうから、匂わせる程度にされているとはいえ、やはり沙代さんはせめてもう少し何かあっても良かったような気はする。

細かいことを言えば、閉鎖的な村としての設定はなかなか苦しいところがあったと思う。あの時代でいくら儲けてるとはいえ村内環境具合の恵まれぶりの謎さとか特に。外部世界との関係もちぐはぐなままラストの救援活動があったりとか。
軸にあるはずの社会風刺や戦争もそこまで真正面から取り組まず、そこを踏まえての水木の描写もちゃんと深く描けてはいないから説得力に乏しいままでとか、いろいろ言いたくなることは果てしなく山積みではある。
もう少し丁寧にシナリオが練り込まれていたら、もっと好きになる作品になっていたとも思う。つまんないわけではないけど、取り立てて面白いわけでもないというか、楽しんでるところもあるけど楽しめてはいないというか。
あと、Twitterで観測してた評判で、ここが昭和っぽい!というのがもてはやされていたけれど、非常にライトなところでもてはやされていただけだったんだなあと思いはした。
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