Arata

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のArataのネタバレレビュー・内容・結末

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

Amazonで配信が始まったので、自宅で鑑賞。

今から15年以上前、テレビアニメで「墓場鬼太郎」が放映されていて、「ゲゲゲの鬼太郎」とは一線を画す表現が斬新に思え、夢中になって観ていた。
この頃、第何次だかのオカルトブームに乗って、都市伝説などの本などが出版されたりしていて、私はそれに乗じて柳田國男先生の遠野物語などを読み始めていた。

2006年に水木しげる先生の故郷境港市で第一回「境港妖怪検定」が実施され、2009年からは先生第二の故郷とされる東京都の調布市でも開催されると知り、妖怪がお好きだと言う諸先輩方と共に受験し、見事に全員合格出来た思い出がある。

今作の予告を観た時に、それらの記憶が蘇り、早く鑑賞したいと思いながらも、結局劇場鑑賞には至らずに、この度の配信を待つ形となった。


【あらすじ】
割愛。


【感想など】
・近年流行の前日譚もので、ゲゲゲの鬼太郎の前日譚とも言える、墓場鬼太郎の前日譚とされている。
それぞれの世界は、繋がっている様で繋がっていないが、繋がっていない様で繋がっている箇所もあり、不思議なパラレルワールド感が楽しめる。


・タバコやお酒が、実際の名称で登場している事で、リアリティ度があがる。


・前半は、モロに「犬神家の一族」を準えたストーリーなので、水木しげる先生の分身的キャラクター「水木」は、もはや金田一耕助でも良かったのでは無いかと思ったくらい。


・水木先生が残した数々の作品は、大きく「妖怪もの」と「戦争もの」にわかれるが、今作ではその「戦争」によって人間が「妖怪」となった一つの例として、龍賀製薬の会長が登場する。
しかし、戦争はあくまでもきっかけで、彼の本質は「私利私欲」の亡者となった「妖怪」として描かれているので、あくまでも二次創作の域を脱さない様にも感じた。

せっかくの戦後日本を舞台とするのなら、自身の欲望では無く、戦争と色濃く結びつけても良かったのかなと言うのが極個人的感想。


・エンドロールで、「墓場鬼太郎」の1話に繋がるのだが、アニメ版と今作とで、若干の相違があるので、続きの様で続きでは無いとも言える。



【お酒】
オールドパー12年

龍賀製薬の社長が、水木に対して「東京でも、こんなお酒は中々飲めないだろう」と言う様な内容の会話をし振舞っている。

今作の舞台は1956年で昭和31年。
1ポンドが1,000円した時代で、関税も非常に高額だった時代。

現在でも4千円台くらいで販売されている、比較的安価では無い類いのウイスキーだが、作品の時代の日本ではとてつもなく高価なウイスキー。
免税店で購入して、お土産としても有り難がられた逸品。
また、時の首相、吉田茂氏、田中角栄氏などからも熱烈に愛された事でも知られる。理由の一つとして、特殊なボトルの形状から、斜めに傾けても倒れない設計がされており、「踏みとどまって倒れない」と言う姿と自身とを重ねたとか何とかとも言われている。

これを振る舞った側の龍賀社長は呆気ない結末を迎えるが、振舞われた側の水木はしぶとく抗い、正にオールドパー12年のボトルの様に「踏みとどまって倒れない」姿で、ゲゲ郎を援護し、鬼太郎誕生を見届ける。
個人的には、とても効果的なアイテムと感じた。



【総括】
ゲゲゲの鬼太郎の主人公鬼太郎が、何故最後の幽霊族なのかと言った設定を、民話、妖怪、死後の世界などを絡ませた戦後の日本の村社会を舞台に描かれている。

しかし、あきらかに「犬神家の一族」からの引用と思われる設定と考えられるので、今作はあくまでも鬼太郎誕生の「説の一つ」に過ぎないと思われる。

この、「本当の所が良く分からない」と言う仕掛け自体が、「妖であり怪である。妖しくて怪しい」と言う「妖怪」と言う存在の本質とも言える。



ゲゲゲの鬼太郎も、墓場鬼太郎も、犬神家の一族も観ていないと言う人が、今作を観た場合の感想を聞いてみたい。
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