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⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のakiakaneのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
3.2
ヒロインは、なぜ殺されるのか。凝り固まった女の役割の再生産と正当化が繰り返される。鑑賞後しばらく言語化できない火種の様なわだかまりがずっと残っていた。

キービジュアルを見た瞬間に周囲のオタクたちが一目で魅了されたという主役二人の姿。(わかる)
彼らの関係と考えの変化。
(「相棒」と言い切るほどの共闘感はなかったように感じたが)バディによる血みどろの武器・人外の身体能力・特殊能力バトル。(アツい)
躍動感のある動きと遠近・陰影のメリハリのある背景など質が高いアニメーション。
人間と妖怪の境界を青系と赤系の色の対比やアニメならではの色彩で表し、昭和31年当時の社会背景も緻密に描写。(支配者層に搾取される側の人間でも、さらに弱い立場の者が紫煙に咳込んでいることに最初は思い至らないという搾取の多重構造が描かれている点に好感)
次世代を搾取する者と次世代に尽力する者によって対比される「家族の絆」の光と影。(我こそは対比描写大好き侍)
戦前日本の支配者層の醜悪さと、終戦してもなおその腐敗と搾取の構造が一掃されることなく温存されている近現代社会への批判。

数多のオタク、特に女性オタクたちの癖(ヘキ)に刺さるのも頷ける。(マジでYes,I think so.)
アニメだからと子ども向けに甘ったるくしない――どころか鉄錆と吐瀉物の味が口いっぱいに広がりそうな展開に、観賞後にファンがこぞって存在しないストーリーを描[書]いてセルフ・アートセラピーを始めるのも頷ける。
どうか心を大切にしてほしい。

それでも本作を高評価できないのは、女が「子産み袋」扱いされる悍ましさを絶対的な悪として描きながら、目玉の親父の妻岩子を作中最も都合の良い「袋」扱いしている言行不一致に強烈な違和感を覚えたからだ。
作中、彼女のパーソナリティや目玉の親父と恋仲になったエピソードなどは具体的に描かれず、「美しい外見」と「人間好き(なぜ好きなのかは不明)」、くらいしか言及されない。
後半に本人が登場したら会話やモノローグで描写されるのか、すわ搾取され続けた妖怪たち、女たちの怒りをまとめて彼女が鉄槌を下す激アツ展開かと思いきや、最後まで主人公たちが奮起する動機と鬼太郎を産む役割に使われる。

思い出すのは『女が死ぬ』(松田青子,中公文庫)の同名表題作だ。

「女が死ぬ。プロットを転換させるために死ぬ。話を展開させるために死ぬ。カタルシスを産むために死ぬ。それしか思いつかなかったから死ぬ。ほかにアイデアがなかったから死ぬ。というか、思いつきうる最高のアイデアとして、女が死ぬ。

女が死ぬ。彼が悲しむために死ぬ。彼が苦しむために死ぬ。彼が宿命を負うために死ぬ。彼がダークサイドに堕ちるために死ぬ。彼が慟哭するために死ぬ。元気に打ちひしがれる彼の横で、彼女はもの言わず横たわる。彼のために、彼女が死ぬ。

女が妊娠する。新たなドラマをつくるために妊娠する。新たなキャラクターをつくるために妊娠する。停滞した状況を前に進めるために妊娠する。」
(一部抜粋)

ファンたちの熱い礼賛を聞くにつけ、一人のオタクとしてわかりみがマリアナ海溝なのだが、どうしても最後まで残ったグロテスクな搾取構造に賛辞を送ることができなかった。
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