木蘭

Firebird ファイアバードの木蘭のレビュー・感想・評価

Firebird ファイアバード(2021年製作の映画)
3.8
 1970年代から'80年代初頭のソ連を舞台に、軍服を着たマッチョな美青年たちの悲しいラブロマンス。

 嘘をつく事は誰も幸せにならないのに、嘘をつかざるを得ない社会で生きていかなければ成らなかった悲劇を、美しい映像で丁寧に描いた作品だし、この作品のヒットが突破口になってエストニアで同性婚が法制化されたという意味でも意義のある映画だとは思うけど...

ドラマとしては凡庸だし、あの時代と社会を舞台にした作品としては考証が怪しい。

 だいたい、主人公の二人が余りにもウカツ。関係性がバレたら社会的に終わりという状況下で、あんなにイチャイチャしているのはあり得ないだろ。
 オープニングで盗聴しているシーンが写るのだが、あの当時、戦闘機ごと亡命出来てしまう軍の飛行士は日常的に監視対象だったのだから、官舎の出入りはチェックされているだろうし、部屋は絶対に盗聴されているハズなのに、あんな自室で愛を育むなんてあり得ない。
 二人でソチに旅行するシーンがあるけど、移動が制限されたソ連では、列車の切符やホテルの宿泊には申請が必要だし、移動や滞在には記録が残って足が付くんだが・・・大丈夫なのか?
 密告で当局がマークしたなら、もっと徹底的に監視されるに決まっているのに、なんであんな秘密警察が甘いんだ?とか気になってしようがなかった。

 そもそも実話を元にした作品である事が売りだが、元になったセルゲイの自叙伝は随分と幻想的な内容で、監督達ですら「ありえないだろ?」と思う描写が多々あって、かなり手を加えたらしい。
 軍の内部で同性の恋愛はあったのだろうけど、このセルゲイの証言はかなり怪しいんじゃないかな。
 それとルイーズは、実際はあの基地司令の大佐の娘で、手記ではボロクソに書かれていたのも、映画化に際して修正したらしい。

 監督たちのインタビューを読むと、軍事面も含めて、かなり細かくリサーチした様だし、凡百のロシア映画よりは遙かにソ連を再現していたけど・・・。

 監督が長編デビュー作を、丁寧に作ってるのには好感が持てたし、制作者が当事者というのもあるのか、吐き出す様に語る一つ一つの台詞に説得力があって素晴らしかったのは評価したい。
 色々な事情で英語劇になったらしいが、へんなロシア語訛りにならない様にとか、英語の発音には気をつけたらしい。ロマン役のウクライナ人俳優は英語が喋れない人だったというのには驚いた。

 それと・・・なんでこれがR18+なのか分からない。性器も写る『大いなる自由』ですらR15+だよ?
 それと日本語字幕に誤植が多いのも気になった。
木蘭

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