簡単にいえば、髪型と目つきがめちゃくちゃユニークな殺人鬼が全力で殺しにかかってくるお話。
直接的な暴力シーンはそんなに激しいものではないものの、静けさのなかに描かれる心理的な恐怖が印象的だった。
描かれたのは圧倒的な不条理と、映画的とは思えない結末の数々。
半ば自暴自棄になって追っ手から逃げようとする男、悲嘆と哀愁漂う老保安官、そして絶望的なほど他者を理解することができない殺人鬼…。
主要人物の3人たち誰にとっても、「俺たちに居場所はない」という物語。
作中でもっとも犠牲を払うのはメキシコからテキサスに渡ってきた人たち。彼らもまた「国をもたない」という意味でタイトルと通ずる。
シガーは「殺す必要はない」という言葉が妙に引っかかっていたようだけど、彼はおそらく「殺さない必要はない」という信念の持ち主なのだと思う。
けれど、われわれとは別世界のルールに生きているようにみえるシガーもまた、この世界の住人だったということ。
やっぱり不条理と滑稽は紙一重かもしれない。