ぶみ

ノーカントリーのぶみのレビュー・感想・評価

ノーカントリー(2007年製作の映画)
3.5
世の中は計算違いで回る。

コーマック・マッカーシーが上梓した『ノー・カントリー』(原題:No Country for Old Men)を、ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン監督、脚本、トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリン等の共演により映像化したスリラー。
1980年代のアメリカとメキシコの国境地域を舞台に、麻薬取引の現場から消えた200万ドルに関係する人々を描く。
原作は未読。
200万ドルを持ち逃げした溶接工モスをブローリン、ギャングから依頼を受けた殺し屋シガーをバルデム、事件を追う保安官をジョーンズ、モスの妻をケリー・マクドナルドが演じているほか、登場シーンは少ないものの、ウディ・ハレルソンが登場。
物語は、狩りの途中、偶然見つけた200万ドルを持ち去ったモスが執拗にシガーに追われる姿に、途中から保安官が絡んでくる構図となっているが、何より、印象的なのはバルデム演じる殺し屋シガー。
特徴的な髪型からして、異彩を放っているのだが、平然とした顔をして怪しげなボンベがついた武器(後ほど調べたところ、家畜銃ピストルなるもの)で人を撃ち抜いたり、妙なルールを持っていたり、はたまた会話にならない会話をしたりと、ビジュアルも中身も含め、強烈なキャラクターで常に物語の中心にいる。
反対に、ブローリン演じるモスは、いざとなると素人っぽさ丸出しなので、いつモスがシガーに捕まるのかというハラハラドキドキなサスペンスの緊張感が溜らない。
加えて、音楽が殆ど廃されているため、時に生活音に溢れ、時にシンとした静寂に包まれることから、この後何が起きるのだろうかという不安感を煽るものとなっている。
ただ、残念なのは、アイルランドの詩人であるウィリアム・バトラー・イェイツの詩『Sailing to Byzantium』から引用された原題『No Country for Old Men』が単純に短縮されてしまった邦題で、原題の持つ意味や良さがスポイルされてしまっているのは、どうにかしたかったところ。
そのタイトルも含め、哲学的な描写もあることから、難解な映画として評されているが、単純にサスペンスとしても、殺人鬼によるスリラーとしても楽しめる仕上がりであると同時に、シガーのような、会話にならない会話をしてみたいと思う一作。

人が敬語を使わなくなった結果がこれだ。
ぶみ

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