ひでぞう

煙突の見える場所のひでぞうのレビュー・感想・評価

煙突の見える場所(1953年製作の映画)
4.0
 東京でも、こんなに人と人との距離が近かったのだ。壁は薄く、プライバシーなど少しもない。でも、この近さが、この時代なのだ。近いということは、お互いに迷惑をかけあうということだ。緒方隆吉(上原謙)と再婚した妻弘子(田中絹代)のもとへ、赤ん坊が置いておかれる。泣き声がうるさく、眠れない。でも、誰もうるさいと文句を言いにはいかない。二人の下宿人=久保健三(芥川比呂志)と東仙子(高峰秀子)も、近所のラジオ屋も、団扇太鼓をたたく日蓮宗の家の人も…。
 壁が薄いから、事情を全部理解している。近いということは、やっかいなことにも、巻き込まれてしまうということなのだ。赤ん坊を育てるうちに、あんなに嫌がっていたのに、隆吉も弘子も情がわいてくる。健三も奔走する。近所の人も、みんな気にかける。まさに、椎名麟三の短編小説「無邪気な人々」なのだ。邪気がない時代の雰囲気がよくわかる。
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