ろく

葵ちゃんはやらせてくれないのろくのレビュー・感想・評価

4.5
若いころって「何かになれないけどなれる」と思っているの。

そう、子供のころは夢はかなうものなんだ、そう信じて生きてきた。でもそんなに世の中うまくいかない。大人になると夢は「かなわない」ものなの。でもね、そんな大きな声で「かなわない」って言っている人も心の片隅で「かなうかも」って思っている。それが青年時代なんだと思う。

みんな何かをしたかったじゃないか。音楽を、映画を、お笑いを、スポーツを、演劇を。でもそんなのはそう長くは続かないんだよ。僕だってそうだ。若いころはお笑いをしていたけどその夢も崩れ、さらには学者になるって夢も崩れ。崩れ崩れ今がある。だからだろうか、こんなピンク映画が何ともしみてしまった。

川下さんは自殺をしてしまう、何もかも疲れて。そして葵ちゃんとセックスするためだけにあの世から戻ってくる。でもね、それセックスがしたいわけではないんだよ。どうしようもない自分を「少しだけもとに戻したくて」戻ってくるんだ。

そしてその相手の葵ちゃん(小槙)は、いや映画監督の松嵜は。いや出てくる人みんなが。何かを追って追い切れなくなってしまっている。だから葵は川下の気持ちを知ってその場でセックスをしようとする。そこにいるのは川下ではない。自分だ、夢の破れた自分だ。その自分を変えたいから、そして川下の自殺を止めたいから。

どうにも夢の破れた自分には刺さる映画だった。でもね、いまおかしんじは悲惨だけではない。最後に希望を持ってくる。その希望はささやかだ。決してうまくいくわけのない希望だ。でも希望は「あるだけ」でも幸せなんだよ。

葵扮する小槙が歌うフォークソングに不覚にも泣いてしまった。すまん、こんな映画(ピンク映画)なのに僕は大好きだ。
ろく

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