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エンドロールのつづきのmaroのレビュー・感想・評価

エンドロールのつづき(2021年製作の映画)
4.0
2023年日本公開映画で面白かった順位:6/8
  ストーリー:★★★★☆
 キャラクター:★★★★☆
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★☆

映画が好きな身からしたら、とても感慨深い気持ちになれる映画。
幼い頃に映画で心躍るような経験をした人は少なくないと思うけど、まさにそんな日々を彷彿とさせる思い出アルバムのような作品だ。
その点で、この映画はインド版『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)と言っても過言ではないと思う。

今だって、映画を観て心躍るような体験をすることはあるけど、幼いときに感じたそれは、今感じているものとは異なる気がする。
幼い頃は自分も知らないことが多いし、技術的な知見もない。
ましてやインターネットもない時代じゃ、ネタバレすら簡単に知ることはできない。
そんな状況で目にする映画の世界は、自分にとっては現実そのものなのだ。

決して裕福とは言えない暮らしの中で、唯一夢見ることができる娯楽である映画。
そんな映画に魅せられたサマイ(バヴィン・ラバリ)の姿に、幼き日の自分を重ねる人は多いんじゃないかなー。
まあ、彼は学校サボってまで映画館に通い詰めるぐらいなので、なかなか同じことはできないだろうけど、それほど映画が好きだったというのは共感できる。

ただ、他の多くの人たちと違ったのは、サマイが興味を持ったのはスクリーンの中だけでなく、映写室。
スクリーンに向かって伸びる一筋の光が放たれているところに、彼の視線は釘付けだった。
今はあんまり感じないけど、確かに昔の映画館って、映写室からの光がすごく際立っていた記憶がある。
その後、映写技師のおじさんファザルと知り合い、サマイも彼を手伝うようになる。
ここは『ニュー・シネマ・パラダイス』そのものだね。

しかし、後半が何ともやるせない。
時代が変わり、映写機もデジタルへと進化。
使われなくなった映写機と数多くのフィルムの辿る運命に哀愁さMAX。
昔、『こち亀』で読んだ映写技師のエピソードを思い出す。
その後でサマイたちが取った行動に、「そこまでして映画を観たいのか」という想いの強さを感じる。
自分で映画を撮ることはできなくとも、映画を流すことはできるって。
映画に反対していた父親も、ついにはその行動によって考えを改めるから。
そこもまた感動ポイント。

ただ、すごく綺麗な話ではあるし、映画好きにはたまらない設定なんだけど、個人的にはメチャクチャ刺さるってほどでもなかったかなあ。
全体的に進行が淡々としすぎていたのと、『ニュー・シネマ・パラダイス』のように心に残るようなBGMがなく、中盤が少し中だるみした印象だったのがその理由。
あと、あくまでも今作のパン・ナリン監督の思い出話なので、子供時代までしか描かれていないのよ(かつ、かなり美化されているのでは?と邪推したりw)。
これでその後の展開まであったら、もっと感動できたかもなあなんて思ったり。
とはいえ、映画に心躍った幼き日を思い出させてくれるのはよかった。

そんなわけで、映画に魅せられたことがある人なら共感できるであろう感動のヒューマンドラマ。
とにかく、パン・ナリン監督の映画への愛が詰まっていることは、随所に見られる名作へのオマージュからも読み取れる。
最後に、パン・ナリン監督が影響を受けた映画監督たちの名前を上げるんだけど、日本からも勅使河原宏、小津安二郎、黒澤明の名前が挙がったのはうれしい。
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