しの

エンドロールのつづきのしののレビュー・感想・評価

エンドロールのつづき(2021年製作の映画)
3.5
映画好き少年の自伝的作品だが、ノスタルジーに浸りすぎず、映画の引用も押し付けがましくなく自然。しかし少年時代の風景を色彩豊かに美しく切り取ることで入り込ませてしまう。というように、作りからは映画愛を感じるが、肝心の劇中主人公が映画の虜になっていく描写が淡々としていてやや困惑した。

入りのショットからして美しく、以降も母親の料理描写を筆頭に生活の「色彩」と「光」で魅せていく。まさに劇中で主人公が虜になった映画のうまみをそのまま画面に提示しているのだ。一方で、物語は割と淡々としている。父親の置かれた厳しい状況や、映画についての彼との対立、中盤の挫折の展開など、色々と盛り上がりそうな要素はあれど、そこは過度に立たせない。そのため悲壮感はないが、かといってコミカルというわけでもない。

もっといえば、主人公が映画をただ観るだけではなく、仲間をも巻き込んで自身でも映画を生み出したいと思うまでに至る過程にも強い熱がない。画面は美しくて入り込めるし、映画が好きでたまらない的なエピソードや、光やフィルタを通じて世界を見ることに興味を持っていく描写自体はあるのだが、もう少しこの主人公を通じた実感によってそれを感じさせて欲しかった。劇中で「映画は物語が全てだ」という台詞があるが、どちらかというと科学的・技術的な興味への印象が強くなってしまっている。しかしクライマックスで走馬灯的に、あるいはまさに「映画のコマ」のように流れていく人々の描写にはグッときた。

また、最後の最後でいきなり噴出する監督の「我」の部分には賛否両論あるだろう。個人的には自伝だしこれくらい我があっても良いかと思うものの、名前の列挙にはやや臆面のなさを感じた。あの流れなら名もなき映画たちにも思いを馳せて良いのではと思うし、どうしても独善的な選別ではあるし。

とはいえ、母親の料理が最後まで意味を持つ構成や、「歌と踊り」に関する要素、階級社会と時代の変遷、ラストでフィルムが加工され変化するあるものなど、インド文化の立場から映画について描くことのユニークさはある。映画作り映画ならぬ「映画映し映画」という地味に新たなジャンルとしても楽しめた。
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