とりん

エンドロールのつづきのとりんのネタバレレビュー・内容・結末

エンドロールのつづき(2021年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

2023年22本目(映画館4本目)

インドのチャイ売りの少年が映画に魅せられ、映画制作の夢へと向かって歩き出す姿を映し出した作品。
主人公サマイは厳格な父の元、映画は人を騙すもの、うちとは合わないものだと決めつけ、映画を観ることを許さず、観る機会も与えなかった。しかし父が信仰するカーリー女神の映画は特別だと、一度限りで家族で映画を観ることになるのだが、そこでサマイは映画の魅力に気づくことになる。

大袈裟に表現するでもなく、ありのままに映画と出逢った時の感動を映し出されているのがすごくリアリティあったし、映写機からどうやって映されているのかなどが気になる姿とか観ていて自分が映画と出逢った頃を思い出した。
もちろん映画の内容自体にも惹きつけられたのだろうけど、映画そのものに魅せられたと言えるだろう。
それから親には内緒で映画館に通うのだけれど、お金もない彼は映写機係のファザールと出逢い、母の特製弁当と交換条件で映写室から映画を観ることができた。学校をサボって毎日毎日。父にバレて怒られる時もあるけど、それでも自分の中の映画に対する気持ちはどんどん大きくなって、自ら映画を作れないかと考え始める。

ただ映画自体を自分たちだけで作るのは無理なので、フィルムを持ち出し、どうやって映し出しているかを試行錯誤する。その時に惹きつけられたのが光、フィルムを映し出したりするのもそうだし、その方法によっても様々な魅せ方をする光そのものにも興味を抱いていく。色のついた瓶のかけらとかで風景を見渡し、フィルターをかけることによって、いつも観ている景色がまた別のものに変わっていくという発見にも改めてハッとさせられたし、電車の中で見つけた光と影を使って映し出した風景には彼が創り出す映像の原点があるような気がしていて、あれを見つけた時は観ている側も興奮した。

彼も映写機にはすごく興味を示していて、ああいった映写機を見るのも久しぶりな気がした。
ファザールからヒントをもらったり、映写機を深く観察することで、試行錯誤しつつもなんとかフィルムを壁に映し出すことに成功した。ただこれだけだと無音なので、音をあらゆるものを使って奏で、映画を自分たちで作り上げていく様はもう胸が熱くなった。自分が昔映画制作に関わりたいって思ってたあの頃の気持ちだったり、映画そのものに出逢って魅せられた感動がすごく蘇ってきて、ジンと心が温かくなった。
こうして映画との出逢い、自分で映画を映し出すという挑戦を見せてくれた前半に打って変わって、後半の展開は一気に突き動かされる。
フィルムからデジタルに変わる変換期が描かれる。自分が惹きつけられたあの映写機から映し出される映像、あれだけ必死の思いをして映し出したフィルム映画、それが小さな箱になってしまうのだ。
また使われていたフィルムなどが再利用されるというのは良いことではあるけれど、自分が観てきた夢そのものが砕かれ全く別のものに生まれ変わる様を観ていたサモイの気持ちは計り知れない。胸が締め付けられるようで涙堪えるのは必死だったなぁ。

それでも映画に関わる道を諦めきれず、光を学びたい気持ちは変わらなくて、夢を追いかけるために住んでいる街を旅立つのだった。最後の両親や友だちとの別れは、同じ場所にいても夢を叶えることはできず、両親や友と別れ自らの足で動き出すことでしか掴むことすらできないことを映し出しているように感じた。

父は厳格だったし、いつも怒ることが多かったけれど、映画に対するサモイの想いや姿を見て、少しだけ心が動いていく様子も良かった。それとは反対にずっと何も言わずに支え続けてくれた母も美人で素晴らしかった。母が作る料理がどれも美味しそうで、観ていてお腹が空いた。

そして友のありがたさ、きっとみんな映画は観たことはあるけれど、それを自分たちので作り上げるということに対してどれほど興味があったかはわからないけれど、サモイを中心にそれを実現しようと一緒に考えたり行動してくれたり、親からはあのチャイ売りの子とは関わるなと言ってもずっと一緒に居続けてくれた子もいる。
忘れてはいけないのはファザール、自分の立場ももちろんそうだけれど、映画に夢を見ているサモイの姿にかつての自分を重ねるように、食事と交換条件とはいえ、間違いなくサモイのことを思いやって誰よりも寄り添っていたと思う。彼がいたからこそサモイは映画により魅せられ、自らの手で映画というものを作り出したいと思えたのだろう。映写機を扱う彼の仕事はデジタル映写機になることでなくなるわけで、その時代の移り変わりにあてられた彼の姿は辛かった。
もう1人、学校の先生。あまり出番はないけれど、学校サボったり授業聞いてなくても咎めることはなく、夢を叶えるための現実を教えてくれて、そっと背中を教えてくれた。
映画に出逢った時の気持ちやフィルムからデジタルに変わった時のなんとも言えない気持ちを改めて思い出させてくれた。

本作は監督のパン・ナリン自身の実話を元にした作品。サモイ役の子役バビン・ラバリは3,000人のオーディションから選ばれたらしいが、素晴らしすぎる演技だった。語るところはしっかり語るがあまり口数が多い方ではなく、むしろ表情や仕草、行動で表現していたように思う。特に後半のフィルムが廃れていく様や夢を追うためにみんなと別れた電車の時の表情は観ていて心痛めるほどグッとくる演技だった。
前半と後半のギャップがうまく表現できていたので、物語としてすごい起伏だったと思う。音楽は前半でもちょっとシリアスすぎるかなと言った感じ。インド映画市場の一部も垣間見れた気がするし、映画自体に対し、思うところが多い作品だった。
とりん

とりん