幽斎

エンドロールのつづきの幽斎のレビュー・感想・評価

エンドロールのつづき(2021年製作の映画)
4.4
【幽斎的2023ベストムービー、ミニシアター部門第7位】
インド映画界の実力者Pan Nalin監督が、少年時代に映画に夢中に成った体験を映画化。アカデミー国際長編映画賞インド代表。京都のミニシアター、京都シネマで鑑賞。

インド映画初レビュー、カレーは好きで毎週ココイチに行くけど今ならグランド・マザー・カレーがお薦め。インドと言えば「RRR」天下一品こってりラーメンを毎週欠かさず食べる私でも、予告編でお腹一杯。「ベンハー」顔負けの長尺、歌あり踊りありコテコテ因縁バトルで綴る、超弩級のエンタメでも冗長に為らず、疾走感溢れる作品。でも、インド人が好きなカレーと日本人が好きなカレーが違う様に、本国直送が最適とは限らない。

欧米人が侍や忍者が好きでも日本の時代劇がバズった試しがない。唯一の例外が「影の軍団」コレもアメリカの吹替えが秀逸で、Keanu ReevesやTom Cruiseの様なフォロワーが生まれただけで、映画も各国のお国柄を反映しなければ、正しく理解される事は難しい。監督はフランスの制作会社に支援を仰ぎ「RRR」の様に広告代理店がブームを煽る一過性は戒めたいと、一般的な英米スタイルの映画に挑み、タイトルも英語原題にした。スペインのバリャドリード国際映画祭で最高賞。此れを観たアメリカのプロモーターがアカデミーに推薦。インドらしさを描くなら、基礎を作ってからでも遅くない。

本作は降って沸いた傑作では無く、監督がドイツ、フランス、イタリア共同制作の経験の糧をフィードバック。インド映画として21年振りにオスカー最終候補に残った。Manuを演じるRahul Koliは小児白血病と闘い、公開される数日前に10歳で亡くなった。監督の幼少期の体験が元に成り、エピソードの殆どが実話で余計に心が痛む。主演=監督の分身を演じたBhavin Rabariは、約3000人のオーディションから選ばれたが、条件として監督の故郷グジャラート州の子供で在る事が必須。拙い演技をする子供に対し、地元の公用語を話せる、自然な演技をする無邪気さも演出できるメソッドを意味した。

Rabariはサマイと同じ様に映画の出演がきっかけで、初めて映画を観たと言うエピソードには素直に驚く、日本では考えられない。彼が瞳を輝かせスクリーンを見つめる、多彩な表情のサマイの姿が極めてナチュラルも道理で。田舎暮らしでは遊ぶツールも無く、想像力を働かせ自ら工夫して憶える。コレは映画のクリエイティヴと全く同じ世界線で、興味と言うテーマを見付ける事で想像力もエンドレス。インドの田舎町には、人真似では無い独自性も養われる、極自然体の感性も息衝いてた。

本作のテーマはズバリ「映画愛」。監督の全ては自分こそ誰よりも映画を理解してる自信と自惚れの表裏一体。監督も映画への愛がダダ洩れ状態ですが、得てして一方的な愛の告白が、男女の恋愛で成功する確率が極めて低いのと同じ様に、インド人以外にも理解して貰うには、テクスチャーの工夫も求められる。秀逸なのは監督は海外勢とのコラボレーションの経験から、自分だけでは無い家族への愛、映画を教えてくれた周りへの愛、上映に協力してくれた友人への愛、様々な愛のトッピングが、計算高くない演出に繋がり、ソレは広い意味のアジア人である日本人にも素直に伝わった。

監督はインタビューで敬愛する監督へのオマージュを隠さないが、例として挙げたfrères Lumière「ラ・シオタ駅への列車の到着」蒸気機関車が駅に到着するシーンは、チャララ駅に列車が到着するシーンのオマージュ。誰もがインスピレーションするサマイが映写室の小窓から映画を観て、フィルムを伸ばして見詰めるのは「ニュー・シネマパラダイス」その後は「スタンド・バイ・ミー」と「大人は判ってくれない」。翌年に公開されたSteven Spielberg「フェイブルマンズ」本作のパクリなのか?(笑)。

私は推理小説を読むのが趣味で映画は二の次ですが、共通するのは「趣味も学び」。サマイも初めて観た映画にすっかり魅了される。彼は「なぜスクリーンに映画が映し出されるのか?」理系の興味が先行し映写機まで自作する。秀逸なのは多くの作品は映画を「夢」として描く、特にディズニーは(笑)。しかし、本作は田舎町の子供さえインド人らしく数学的に映画を捉え、なぜ動いて見えるのか?学びたい欲望に駆られ、直ぐに行動に移す。探求心は周りの人を巻き込む求心力として、厳格な父まで動かす原動力に成る。日本人が昭和の終焉と共に失ったバイタリティを映画の隅々にまで、感じざる負えない。

インドにはカースト制度が有り、父親はバラモンの頂点のクラス。父親は逆に階級と言う尊厳に縛られてる。インド映画界は親や親類が業界人で無ければ監督に成れない慣習が有る。壁を超える唯一の方法は「学問」。彼らは西側の価値観にも理解を示し世界から孤立する中国の轍は踏まない。学ぶ事への情熱を忘れない彼らは、何時の日かノーベル賞を連発するだろう。インドにも光ケーブルが普及、配信で見れる環境が現在は整ってる。夢は色褪せるモノでは無いと言う意味で「Last Film Show」素晴らしいタイトルだと思う。

ホッコリするのはメッチャ美人でスタイル抜群のお母さんの「カレー弁当」。床にすり鉢を置きスパイスを潰す。流石本場インドだなとボヤッと見てたが、その毎日のバリエーションが凄い!。日本で例えると「おにぎり」かもしれないが、カレーをポットに入れナンを折り畳んで、唐辛子とスパイスと野菜と一緒に風呂敷に包む。ベースは同じでも毎日飽きないのは、創意工夫と言う意味で映画創りと全く同じで有ると見事に映し出した。

現代インドには2つの階級しかないらしい「英語ができる層」と「英語ができない層」。
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