ボギーパパ

クレッシェンド 音楽の架け橋のボギーパパのレビュー・感想・評価

4.5
2022-13 HT有楽町

先週であったか新聞広告見て、えっ!ラヴェルのボレロがかかる映画なのか、と思い鑑賞。この曲私大好きなのです。

タイトルの『クレッシェンド』の通り、同じ旋律を同じリズムで一つ一つの楽器の音色が重なり徐々にクライマックスを迎えるこの曲が好きなのです。
映画の一要素として重要な音楽、そこに好きな曲がストーリーと絡み演奏されるのであればもう最高でしょう♪

しかし本作はパレスチナ🇵🇸とイスラエル🇮🇱の若き音楽家を集めオーケストラ編成し、和平のためのコンサートを開く野望を持った主催者が、世界的指揮者スポルクを口説き実現に向かうお話。かなり重い、そして厳しいストーリー。

この両国の歴史は憎悪の歴史と言っても過言ではないのは周知の通り。突然の侵攻、戦争、虐殺、テロは両国民それぞれが傷つけ、苦しませ、憎みあわせ、それがDNAレベルまで染み付いている。主人公たちも、それぞれの家族もそう。(あっ!また家族の映画だ。今年は本当に家族映画が多い。しかも束縛、呪縛が絡む・・・)

案の定オーディションから相互不信、相互憎悪の嵐。そこでスポルクは3週間の南チロルの合宿へ向かう。この南チロルってところが、スポルクの原点というか、ルーツというか・・・意味深い土地。憎しみ合う楽団員を自らの出自を明かし、心のコーチングで、オーケストラを一つにする。

そして和平コンサート直前の不幸な出来事が起こり、、、となるのだが・・・

音楽主題の映画だから、冒頭からそれぞれの国で、またオケにて演奏している姿が描かれているが、この姿や、音色の変化が心を打つ。特にパレスチナ人レイラの演奏、そしてその表情の変化に注目してほしい。またそれはイスラエル人のロンにも言える。ヴィヴァルディの「冬」、ドボルザークの新世界第2楽章「家路にて」、バッハルベル「カノン」と、本作で奏でられる曲は皆音の積み重ねが極めて美しい曲ばかり!もちろん意図的な選曲だろうが、それぞれ演奏されるシーンは、その場の状況と、この楽団にとって、そして両国にとっても意義を見出すことができる。

そしてラストシーンに奏でられたのはもちろん・・・このシーンの、この曲、そして演奏者の心の有りようが、観る側にビンビンと伝わってくる。これぞ映画!クロージングが見事。こういう締め括り方が好きだ。この時のレイラとロンの目はおそらく生涯忘れないだろう!

映画館でしか堪能できない意義深い作品です。
ボギーパパ

ボギーパパ