YAJ

クレッシェンド 音楽の架け橋のYAJのネタバレレビュー・内容・結末

3.2

このレビューはネタバレを含みます

【ニトリ】

 先週末(4/22-24)はライブ三昧で、音楽がもたらす感動や、生み出す共鳴、一体感の素晴らしさを身に沁みて感じてきました。本作は、そんな最中の鑑賞となり、感慨もヒトシオ。

 内容はというと、

「長く紛争の続くイスラエルとパレスチナから集った若者たちがオーケストラを結成し、コンサートに向けて対立を乗り越えていく姿を、実在する楽団をモデルに描いたヒューマンドラマ」(公式サイトより)

 実在する楽団は、ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団。公式サイトにもその紹介がある。近年の実際の活動の様子を伝えるネット記事もあった( https://globe.asahi.com/article/12008519 )。

 また、同じように多民族による合同オーケストラとしては、昨年拝聴したバルカン管弦楽団の演奏を思い出す 。
 そのBCOを指揮する柳澤寿男氏が本作品のレビューを寄稿しているのも何かの媒体で読んだ(「トランヴェール」だったか?)。まさに適任。
 BCOのサイトに「バルカン室内管弦楽団は多民族間文化交流の貴重な音楽の架け橋となっている」とあるが、本作の副題はそこから採った?と思うくらい、企図、趣旨は同じだ。

 本作のモデルとなった実在の楽団のほうは、主催者がロシア系ユダヤ人とパレスチナ系アメリカ人。ほどほどに中庸な立場の人物。
 一方、映画作品では、楽団を率いる指揮者スポルクの出自をドイツ人とし、しかも両親はナチの大虐殺に加担した医者という、輪をかけて複雑な人物設定とした(その設定が巧く回収されたかは疑問が残るが)。

 そんな歴史の禍根と現実の対立の両方を踏まえて、さて、寄せ集めミュージシャンによる平和コンサートは実現されるのか!?・・・は観てのお楽しみ(^m^

 金曜日のセルビア演奏会では、ロシア東欧につらなる文化圏の重なりに思いを馳せ、旋律の中に日本の郷愁をも感じ、土曜は日本人がプレイするサルサのリズムに血沸き肉踊り、日曜は収益を全額Save the Childrenのために寄付するパフォーマーの意気に感嘆。
 音楽をはじめとする文化やスポーツによる交流は、平和への橋渡しになるに違いないという認識を新たにしました。

 本作も、そんな願いと想いのこもった作品です。



(ネタバレ含む)



 現実を反映してか、世の中そんなに甘いもんじゃないゾ、という結末にしたところに、監督ドロール・サハヴィの強い思いを感じた。
 音楽の生み出す感動と共に大団円を迎えたとしてもチケット分の元は取れたと満足できただろう。が、そうしなかったところに「お値段以上」なものがあったか。

 細部の詰めの甘さ、平坦なストーリー、演出(盛り上げ)不足などなど、細かいところを論うと、いまひとつの出来栄え。それを劇中演奏される超メジャーなクラシックの名曲で穴埋めしている感もナキニシモアラズ。曲の使い方がなによりキモである音楽劇、でもなぜエンドロールはクラシック曲じゃなかったの?という不満も残る。

 とはいえ、同じくパレスチナ問題を扱った「オマールの壁(13)」や、「パラダイス・ナウ(05)」のように、対立・分断ありきの現実世界を描くのではなく、相互理解、平和希求の姿を描く内容であるからこその、歩み寄ろうとする両者の間に立ち塞がる「壁」の存在が一層際立っていたかもしれない。
「テルアビブ・オン・ファイヤ(18)」のように笑いと諧謔で現実を皮肉ってみる描き方も悪くないし、パレスチナ問題も、切り口によって印象を変えるなと改めて思わされた。

 あと一歩のところで大願成就とならなかったプロジェクト。でも、そこに少しでも希望を見出せるのかもしれないという話の締め方は、うん、確かに、ハッピーエンドとするより訴えるものがあったと思う。

 そこが(だけは?!)、お値段以上!(笑)
YAJ

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