いずぼぺ

クレッシェンド 音楽の架け橋のいずぼぺのレビュー・感想・評価

3.8
今日もニュースはラファやガザの壊滅的な状況を映し出す。なかなか実現しない休戦協定。一日遅れるごとに確実に一般市民が巻き込まれ命を失っていく。

和平を目指してイスラエルとパレスチナの若者の合同オーケストラを、という企画で集まった楽団員。これ、実話だったのですね。レビュワーさんの記事で知りました。

ヴィヴァルディの「冬」、集中力高くお互いの音を聴いて演奏していく歓びが伝わってくるシーン。何かが少し変わり始めたのかもと淡い期待すら持ってしまうシーンだった。
お互いに罵り合い、理不尽に奪われた近しい人の死を嘆き、怒り、争いに。
2000年以上蓄積されてきた負の感情は根深い。

企画をお流れにすると決めて去っていく、主催者の女性の去り際の言葉が心を抉る。

「善意だけでは足りなかった。でもやる価値はあったわ。結果はだせなかったけど...次は南スーダンへマラリア対策に行くわ」

この言葉が当事者以外の人間がたどり着く答え。支援や協力の顔でやってくるが、所詮よそ者が単発のイベントをぶち上げてるだけ、最後まで付き合わないよね。えぐった傷をさらしたまま出ていくのは無責任だ。だから監督は絶対にこのセリフを入れたかったんだと思った。

壁越しのボレロ。ベタな選曲かとも思ったけど、改めて考えてみるとベストな選曲だ。
音を重ねるタイミングのために相手の音を呼吸をよく聞かなくては曲に入っていけない。
壁越しなら、音楽なら、お互いに耳を澄ませて聞くことができるのに!

每日ニュースを観て、遠い安全な日本から無力を感じている。
海外の大学生のようなデモ活動をするわけでもなく、ただ一人無力を感じている。
当事者だけでなく、部外者も入ってこねくり回して2000年ややこしかった問題をさらにややこしくしてしまってる現在。
せめて、子どもたちだけでも安心安全、おいしいご飯、キレイなトイレを保障してあげて欲しい。
心が沈む作品だった。
83