さく

コーダ あいのうたのさくのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
5.0
『エール!』という元となった作品があるようですが未見です。なのでその前提で書きます…いやぁいい映画でした。感動的なんですが、感動ポルノ的な要素は一切なく、脚本や演出の妙で感動を生み出しているところが素晴らしいと思いました。

以下、かなり細かいところまでネタバレ含みます。好きすぎて具体的に語りすぎた気もしますが…

本作、一番役人みたいな人たちとかを除いて主要な登場人物は皆善人です。善人だらけの世界で「感動」を描こうとすると、突然の不幸(事故、大病…)を仕掛けとすることが多いですが、ちょいちょい色んなことは起こるものの「大事件」となるようなギミックは用意されていません。聾唖者という設定はあるものの、感動の押し売りにはなっていないのが好みです。

家族、恋愛、歌…とそれぞれが並行して物語が動き始めますが、あっちがうまくいけばこっちがまずくなり、またこっちが良くなれば…とシーソーゲームのように人生はうまくいかず。それぞれがただ前を向いて生きようとしているだけなのに、歯車が噛み合わないことで対立も起こってしまう。

ともかくみんないい人なんです。一部、漁師から金をむしり取る悪徳役人みたいなのは出てきますが、例えば監視員の人にしても悪人ではなくて、仕事をきちんと行っただけで、ラモス瑠偉みたいな親父を貶めようとして通報したわけではない。

私は「悪い人が悪い所業をして主人公が苦境に追い込まれて乗り越える物語」よりも「良い人が良かれと思ってあるいは無自覚にした行いが、立場の違い、誤解、その他によって人の対立や不幸を産んでしまう」みたいなストーリーの方が好きなんだと改めて気付かされました。改めて気付かされたので、「具体例を挙げよ」と言われても思いつきませんが。でも、ダースベーダーはこれに近いとは思います。

魅せばのひとつである高校のコンサートシーンですが、ここの演出が絶品です。ルビー(エミリア・ジョーンズ)の歌と、それを「聞く」聾唖者の父、母、兄。ここでサッと音がフェイドアウトしてラモス瑠偉(父)視点に移る。無音の中で周りの観客の反応を見て、自分の娘の歌声が多くの人を感動させているのだと悟るラモス。ここで一つの決心をつける…その後の夜のシーンまで含めて、こんな素晴らしい演出はないです! ここでも変に泣き叫んだりしたいで淡々と感動を味合わせてくれるのが良いです。こういうシーンで「さぁ、泣け! 泣け!」みたいにされると逆に萎えるし、ダサいと思います。

中盤で、物語がガッと動き出すシーンでらクラッシュの『I Fought The Low』がかかるのもテンションがガッと上がっていい感じでした。パンクはニワカ知識しかないので、この曲がクラッシュの(カバーした)曲だったと後で調べて知りましてが。BGMで頻繁に使われる名曲ですね。

そして、この物語の肝とも言える、ジョニ・ミッチェルの『青春の光と影』。いかにも知ってましたみたいな体で書きましたが、初めて聞きました。歌詞がもう本映画とピッタリハマりすぎて手話とともに家族へ向けて歌われたオーディションのシーンで、ここでようやくほんとに家族とつながることができた…兄貴も大好きだよ。

今年始まったばかりですが、私的ベストムービー候補です。
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