お願いだから、この素晴らしい映画だけは、「泣ける」なんて言葉のみで形容しないで欲しい。
とにかくいい映画だった。
心震える映画体験。
何から褒めようか、なんでもいい。
だって全部いいんだもの。
でも何よりもまず言いたいのは、ちゃんと笑えるシーンがたくさんあったこと。まだ見ていない人にはそこを一番強調したい。泣きに行く映画じゃない。楽しい時間も、ぎっしりと詰まっている作品だ。
そして、耳が聞こえない人を同情の目で描いていないところも好きだった。お父さんはマジで下品だし、お母さんはイケイケだし、ちゃんと耳が聞こえない人をただの可哀想な人ではなく、人間として深く造形しているところが良かった。主人公の家族だけでなく、友達や先生などの脇役も全員、愛を持って描き切ろうという胆力を強く感じた。
「描き切る」というところが重要で、家族一人一人と主人公との物語上の見せ場と帰結点をそれぞれ用意していたところが見事だった。お父さんと主人公のシーン、兄とのシーン、母とのシーン、それぞれ違って全て素敵。多くの人たちがこの家族の誰かしらには感情移入をすると思うので、そういう意味でどれが一番好きなシーンだったか見終わった後に話すのが楽しい。
この映画を観て、改めて心に残る作品はどれも「綺麗ごとのバランス」が絶妙なんだなと感じた。物語の最後があまりに綺麗事過ぎても冷めてしまうし、だからと言って厳しい現実を描くだけでも、観客が絶望する以上のものは残せない。
この作品は、登場人物たちを責任感ある姿勢で彼らの現実を丁寧に描きつつ、最後まで人生に耐え忍んだ彼らと観客達のために、ささやかな希望という名のプレゼントを残してくれた。
それはまさしくフィクションにしかできないことであり、この物語はその効能を最大限に活かしていたように思う。
誇張抜きで、この映画を見て俺ももっと頑張れるんじゃないかって勇気をもらった。
たまには小さな嘘を信じてみたくなる。
最高だぜ。