はるな

コーダ あいのうたのはるなのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
5.0
サンダンスで史上最多4部門受賞、アカデミーで作品賞、感動系との評判、音楽映画、久々に映画館で大号泣してやろうと思いだいぶ公開館数も少なくなってきたところに滑り込みで観賞。結果、評判に違わない素晴らしい大大大傑作だった。TSUTAYAのレンタルを待つとかしょうもないこと言ってないで観に行って良かった。

聾唖の両親と兄と暮らす家族唯一の健聴者ルビーは漁業を営む家族の通訳をしながら学校の選択授業で入った合唱クラスをきっかけに歌にのめり込んでいく。
聾唖の家族を支えるか、音大に進学するチャンスを得るか
聾唖者と健聴者
度々立ち現れてくる二つの世界
その両方の側に立って揺れ動くルビー
最後に歌う曲がジョニ・ミッチェルの「Both sides now」だったのも、歌詞の意味も考えれば非常に納得のいく選曲だった。まさしく境界を挟んだ二つの側から世界を見てきた主人公の視点。

エミリア・ジョーンズはじめキャスト陣は全員すごく良い。ルビーの家族は実際に聾唖の俳優らをキャスティングしたらしいが(メイキングやインタビュー映像なんか見ても手話で話している)、キャスティングからしてしっかりと、“偉い”作品。アカデミー受賞歴もある聾俳優の先駆者マーリー・マトリン、機能性だけでカーハートを選んで着てる感じのファッションと険しいしかめっ面のビジュアルが個人的にどツボな親父役トロイ・コッツァーも助演男優賞に相応しかった。が特に兄貴役ダニエル・デュラントが素晴らしく、彼の家族や妹に対し実は感じてきた思いを明かす終盤のシーンは涙無には見れなかった。妹に対し劣等感を抱きつつ、妹以上に家族やコミュニティの軋轢を感じつつそれでも不器用ながら愛と優しさを以って妹を見送る兄貴の姿は2016年『シング・ストリート未来への歌』の兄ブレンダンも思い出させる。
『シング・ストリート~』と言えば主人公コナー演じたフェルディア・ウォルシュ・ピーロがまた表情は無垢だけど裏に色々抱えてそうな青年を好演していたね。彼がまた「君の両親は愛し合ってて幸せそうだ」なんて言うもんだから・・・(泣)
みんな大好きV先生は言わずもがな。

『エターナルズ』『サウンド・オブ・メタル』『クリード』と難聴、聾唖の登場人物が出てきたり、テーマ・題材そのものだったりする映画が増えているがこれが単なる流行りで終わらず、言語としての手話表現がスタンダードとして受け入れられていけばいいなと、そんな風に思う。

映画表現の豊かさについて改めて考える。
ルビーが合唱の先生から「歌うときどう考えている」と聞かれるシーンで彼女は歌にかける思いを言葉に出来ず手の動きで表現します。このシーンでの"手話という言語"の美しさたるや。彼女にとっては英語を話すようになるずっと前に覚えた言葉が手話なのです。文字や言葉で自分の心のうちにある感情を出すとうまく表せなかったり齟齬があったり、だからこそ映像で視覚的に直接表現して伝えることのできる映画は素晴らしい。あの時の感動はまさしくこれだ!って
ホントはもっと書きたいことがあるってこと
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