Automne

コーダ あいのうたのAutomneのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.4
憂いを帯びたその眼と、諦めることに慣れてしまった深い色。それでも少しだけ希望を見ようとして、見つかるとそれはそれで遠慮してしまう。
聾唖者の家族に生まれて、1人だけ耳が聞こえ話すことができるのに、その分の後ろめたさを感じて、家族の中で1番寡黙になってしまうこと。
“自覚のない毒親”という点では共感度つゆだくだくねぎましまし過ぎて…どれだけ伝えても理解されないし、結局送り出しはするのだけど、それまでに子どもに与えたであろう大きなトラウマや傷のことは毒親は分からない。それでいて、結果良かったでしょ?って感じで己の育て方を振り返ることもしなければただ肯定することの怖さ。
これはずうっとコミュニケーションの不随の話で、震える喉、歌を通じて家族がつながってゆく、別れてゆくその過程がじっくり描かれていた。

元ネタの『エール!』も見れてないのもあって(なんなら聾唖者の物語は『聲の形』しか知らない)、ちゃんとしっかりくっきり感動してしまった。ドラマ的要素が強いし、こんなにあったかい家族なんて経験したことないから、その分軽率にぶっささる。

でも最近気づいたのは映画的良さと、簡単な感動はイコールではないということだ。
どちらもジャンルの違う良さ。自分は個人の経験を重ねて感動しちゃってるし、そういう風にオーソドックスにきちんと作られてるから、ある意味めちゃくちゃズルいのだけど、ティッシュの箱半分使うくらい後半はぼろぼろ泣いてた。
私のことを考え、傷ついてきた/あきらめてきた それらの集積が一気に襲いかかる。
ミュージカルの良いところは歌詞とシーンの一致だ。雲のせいで青空が見えなかったという部分では、物語的には家族に気を遣ったせいで自分の人生を見つけられなかった、と翻訳できる。それを歌うシーンで、雲であった家族が、熱心に彼女を期待を込めて見ている。2階席なのが雲感あって好き。

女の子が女性になる旅立ちという意味では『レディバード』的(あっちは最後まで別れを告げられない切なさがあった)、家族と不具というテーマ性だと『ワンダー きみは太陽』的、夏の儚さ、出会いの燃える炎と別れ、という点では『グッバイ・サマー』『キングス・オブ・サマー』的。
いずれもめっちゃ好きだしぼろぼろ泣いた記憶。

とにかく、ジョニミッチェル好きは刺さるし(Both Sides Nowは禁じ手)、家族に愛を感じたことがない人ほどトラウマ的に響く。間違いなく大衆的でエンタメでちゃんと感動するという意味では良作なのです。
Automne

Automne