yuum

コーダ あいのうたのyuumのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.2
「お金のかかる手話通訳は雇えないから」と家族メンバーのうち唯一の健常者の娘に通訳の役割を担わせてフルタイムの仕事以上の時間拘束と貢献を求めざるを得ない聾者家族のことも、通訳の役割から解放されて普通の子供らしくバークレー音大を受験したり恋をしたいと願う娘ローズのどちらも身勝手だと責められない。唯一責めるべきは大人の代わりに子供が責務を負わざるを得ない状況を生んだ粗末な社会福祉システムであって、こういう人たちを助けるセーフティネットを作れずして私たちは何のために税金を払ってるんだと怒りが湧く。(これは海外のフィクションの物話だけど日本にも似た状況はきっとあるはずで国葬に2.5億円かけてる場合じゃないでしょうと泣)身障者のサポート以外にも親・祖父母の介護などさまざまな家庭の事情で進学や夢を追うことを諦めた子供は私の周りにもいて、現実問題としてその人たちを救える方法は本当に限られている。予期せぬミラクルが起きて円満解決ハッピーというのはあまりにファンタジーすぎるために映画では最後ぼやかして終わらせたのだと思う。
この映画がもう一点リアリスティックだったのは音大受験の際に審査員が「貴方は...高校の音楽サークル以外に”特別な音楽経験”は無いのね」と悪びれずにコメントするところ。ウォルマートで売っていそうな原色のもさっとしたダウンジャケットを着たローズは、長年オペラ歌唱レッスンを受けてきたのであろう品の良い高級なドレスを着た「育ちの良い」ほかの受験生とは明らかに毛色が違う。たとえ才能があっても教養にお金をかけられない環境で育ったこと明らかな学生に対して経験のなさを指摘するのは残酷すぎて胸が苦しくなりかけた時、ローズが瞬発的にまっすぐな目をして「それは質問ですか?」と答えたのが凄く格好良かった!
子供ぽい思慮浅さで一度信頼を壊してしまうローズの意中の人マイルス、確かに軽率だったけど彼の感じからして身障者を馬鹿にするニュアンスは本当に無かったのだろうと思う(&思いたい)。寧ろカフェテリアで意地悪く揶揄した女の子が後年思い出して自分の行いを恥じ入るだけで。森の湖に飛び込んでキスするシーンは巻き戻して見たくらい、今年一番ときめいた🥲
yuum

yuum