Few

コーダ あいのうたのFewのネタバレレビュー・内容・結末

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます


お父さんがルビーの喉元や首、鎖骨にふれて、歌う振動を確かめるとき、お父さんの掌に広がる娘の体温や、振動、喉仏の上下、伸縮する筋肉が、私の掌にも伝わってきた。
コンサートで聞こえなかった、娘の歌声を手で聴くその手つきが、何も取りこぼさないように必死だったようにみえた。すごく印象に残っている。

でも感動の押し売りで終わらないのがこの映画の強みだった。ルビーがいない漁船に、監視員が乗り込んだ時に「ろう者だけでは操船が危険だ」という理由で、通報されてしまう。のちに裁判にかけられて罰金に課せられるが、こんなもの、制度の責任であることは言うまでもない。適切でないかもしれないが筆談でもなんでも、操船できる環境づくりは周囲からできるはずだ。物語に対してではない、もっと政治的なベクトルへ怒りを起こせるのは、彼らの日常に横たえられている理不尽さを、狭い世界で可哀想に撫で回さず、公的な理不尽さを描こうと試みたからだ。描かなくてはならないことだから、試みるほかないとも言えるけど。


母親が「コンサート用のドレスを買った」とルビーに手渡すシーンでは、ルビーの表情が素晴らしかった。
音大に行くことを諦めて、家族の頼りを引き受けつづける決断を必死に固めようとしている最中、母親から「頼りにしてるの」と繰り返し言葉をかけられる。嬉しいはずなのにどうしても歪んでしまうルビーの顔は、決断に含まれる複雑さが滲んでた。よかった。
その表情をたたみ込むように、娘を頼ろうとする親の意地悪さも、緊迫感があった。

とにかく、「ろう者の子供だったらよかった」と正直に話す母親でよかった。その後、親との苦労が語られることによって、母親のやや押し付けがましい明るさも、立体感を帯びてくる。

べっしょべしょに泣いちゃったー…
ルビーは赤色、赤色のドレスを着たルビー、すごくきれいだった。
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