話すだけがコミュニケーション?声なき声を聞け!“耳”じゃなく“心”を傾けろ!設定だけで涙腺ぴくぴく。コロナ禍における安全品質ハートフルムービー。
【あらすじ】
耳の聞こえない両親と兄をもつ唯一の聴者ルビーは、家族と世間とを繋ぐ存在として頼りにされていた。そんなある日、ルビーは音楽講師に歌の才能を見出され、音大への入学を真剣に考え始める。しかし、自分が居なくなれば、家業の存続が危うく、家族に歌声を届ける術もない。
歌か家族か。果たしてルビーが下す決断は?そして、家族は娘とどう向き合うのか──?
【感想】
歌うことが好き。でも、兄や両親に、自分の歌を聞かせられないルビー。家族も家族で、真に娘を応援してやれないし、理解してやれない。だからこそ、一家各々が、互いを理解しようと尽力する。
そんな構図そのもののパワーが計り知れない作品です。娘や息子の夢を分かち合えないのって、親の心境として本当に居た堪れない。
でも、聞こえないからこそ!声による対話が出来ないからこそ!浮き彫りになってくる“愛”が確かに映画にはあった。なんとか娘を理解しようと、愚直に心を傾ける姿にグッと来る人は多いんじゃなかろーか。
……というのが、ストーリー上の面白さ。
2022年アカデミー賞作品賞・脚色賞他ということは、当然「コロナ」も視野に入れての構成だったはず(劇中に直接的なコロナ描写は無し)。喋れないという特異な背景を無理なく脚本に忍ばせ匂わせる。背中越しのセッションや声無き手話の対話などなど印象的でしたね。
他にも、耳が聞こえず会話が出来ないため、対面しているにも関わらずスマホのメッセージ機能で対話をするシーンなど。コロナを除いても、現代のコミュニケーションを追求しようとする演出が面白い!元となった『エール!』との根本的な違いは、こうした時代性にある気がしてます。
手を繋ぐ、抱きしめる、見つめる、ボディランゲージ、SEX…喋ることも勿論大切だけど、人と対話する方法は、話すことだけじゃない。物語としても、現代を見据えた表現としても、コミュニケーションの本質に迫ろうとする素敵な映画でした。