豚

コーダ あいのうたの豚のレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.3
勇敢な兵士には帽子を被せようね

聴覚障害者の家族を持つ主人公が、音楽の道を志すコメディドラマ。
ま〜なんというか、いかにも「泣けます!」的な宣伝のされ方だったうえ、テーマがテーマゆえ説教臭かったらやだなぁという思いもあり、なかなか食指が動かなかったのだけれど。
いざ蓋を開けると作品として、非常に誠実かつ真っ当な作りでびっくりしたのが正直な感想。
そしてこの作品のおかげで「CODA」という言葉を知りました、ありがとう。

家族と夢の板挟みの中でさまざまな障害を飛び越えるのではなく、できる限り寄り添いながら解決しようとする主人公ルビーの真摯な姿勢に何よりも胸を打たれた。
一番伝えたい人、聴いて欲しい人たちに、自分の声が届かないのはどういう気分なのかな…と終始考えてしまう。
ぱっと見は障がい者の家族を持つ主人公ルビーの苦難物語なのだけれど、「自分はどうするべきなのか?」「どこを目指すべきなのか?」というティーンならではの感情の機微を描いた青春物語でもある。
さらにいえばルビーと、家族の成長の物語。
無駄に臭くなく重くなく、さらっと観られるけれど、きちんとろうあ者の苦難やCODAの苦悩を描いている点がすごく良いなと思う。
とくに終盤近くの演出が素晴らしすぎて一気に涙腺を持っていかれてしまった。

ただ、無粋なんだけれど、これってルビーが特別な才能を持っていたからこそ成り立った話なわけで、(誤解を恐れず言うけれど)「歌というGiftedがなかったCODA」のパターンだと、果たしてどういう形に帰着していたのかなとも思う。
自分にはCODAの知り合いがいないので分からないけれど…だからこそ、この輝かしい物語の後ろ側を見ることも大事なのかなと感じた。

主演はエミリアジョーンズ。
歌うまっ。
お父さん役のトロイコッツァーがとくに凄かった。

脚本の良さというよりも、俳優の演技の力強さで進んでいく物語かなと思います。
ろうあ者だからといって綺麗に描きすぎない、当たり前に人間であるということを描いた点はすごく好印象でした。

とても感動するけれど、とても重い何かを残してくれる名作。
この映画を正常に観られている時点で、恵まれていることを実感する。
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