ひのらんげ

コーダ あいのうたのひのらんげのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
3.5
私の思い上がりや無知を、一撃で思い知らされるあのシーンが脳裏から離れません。

漁師を営む家族のうち、唯一の健聴者である女子高生の「ルビー」。早朝から漁を手伝い、魚臭いまま高校に通う。

田舎の町ではこの家族は有名で、ルビーが幼いころから親に代わってビールを注文している姿などは、通常の風景となっていた。

ルビーは自分の発音がトラウマとなっていて、人前で歌うことにブレーキをかけていたが、かっこいい同級生がコーラス部に入ったことをきっかけに歌うようになる。

一方そのころ、家族はろう者であることが原因で漁師としての経営がピンチとなる。ルビーの歌の才能は開花するが、唯一の健聴者を家族は純粋に応援し、旅立つ背中を押すことができるのか。

思春期の少女と、デリカシーと計画性のない家族。

お互いの歌声は届くのか。

ーー
おならににおいがついている理由なんて、考えたこともなかった。

ルビーは家族唯一の健聴者であるから、汽笛を聞いたり、人とのコミュニケーションでは通訳も一手に引き受ける。家族も(強く)頼っているし、ルビーもそれにこたえようと毎日が必死。

歌のレッスンにはそういった事情でたびたび遅刻し、叱責されるが彼女は一切その事情を話さない。これは言い訳とは違うと思うのだが、理由にしたくない事情があるのだろう。高校生のルビーの心に秘められたある種のコンプレックスがそうさせるのか。
歌の先生は(才能を見出す才能はあるのだと思うけど)人生の判断に介入するのだから、これくらいは感ずいてほしかったと思ってしまった、、、

「歌を歌うときはどういう気持ち?」と歌の先生に聞かれて、ルビーがジェスチャーで答えたシーンがとても印象的でした。感性が刺激されて、なにか目の前が広がった気がする素晴らしいシーンです。

ーー
無音の歌唱シーン。知ったかぶりの私に対する当てつけのような強いシーンでした。このシーンで私は私の無知を知り、同時に立場がガラッと変わりました。

”支える”とか”支えられている”というのは、依存とは微妙に違う。
きっと言葉にも文字にも、そして手話にもできない不思議な関係要素なんだと思います。

手話しながら歌うルビー。
いや、あれば手話で歌ったのだと思う。
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