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コーダ あいのうたのすのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.5
わたしの中の根本博成さんが、劇中「これは、家族の愛の物語」って言ってました…(伝わんのかこれ?)

身内で唯一の健聴者であるからこその葛藤や悪意のない搾取、その歳にそぐわず背負わされてしまった責任と役割。そしてそれが家族間であるがゆえの慢性化。何度もぐっと堪え飲みこむルビーの姿に、無邪気な子どもではいられなかった、大人にならざるをえなかった幼き彼女を見て胸が締めつけられた。それでもルビーは腐ることなく、自分の好きへまっすぐに突き進む。決して悲観的でもなければ、家族や環境のせいにもしない。そして、強行突破でも、ティーンならではの未熟な主張でもなく、愛をもって自分の夢を掴みとるんだ。そんなの、泣くしかないだろう…。

父、母、兄、それぞれにルビーを想っていて、愛している。けれど日常的に彼女に寄りかかりすぎていたこと、甘えすぎていたことから、ルビーがただ自分の人生を歩もうとその一歩を踏み出しただけで崩れてしまう均衡。でも讃えるべきは、この家族がその現状に向き合い、依存から脱する覚悟を決めたこと。彼女を、彼女の歌声を世界へ羽ばたかせるために、重荷から解放する勇気を持ったこと。その姿勢にこそ愛を感じたし、それこそが愛だとも思う。

聴こえるとか聴こえないとか、そういう次元じゃなくてもわたしたちは家庭において誰もがそれぞれに、なにかしらの役割を引き受け、同時に、強いている。家族だからこそ生まれる甘えと依存って一番目に見えない搾取な気がしていて、だからこそ弱音が吐けない、断れない、嫌だと言いきれない。でも、搾取され続けた側の人間は、いつかきっと疲弊しきってしまう。もしかするとこれは、介護をはじめ昨今問題視されているヤングケアラーにも通ずる構造なんじゃないかな。

ハンディギャップを主軸においた家族愛でありながら、それだけではおわらない、それぞれの葛藤と想いにやさしく寄り添う、フィクションとノンフィクションの狭間を描いた、そんな良作だった。

冒頭1分でエミリア・ジョーンズの歌声に心を掴まれるし、すべての歌唱シーンに鳥肌が立ったけど、わたしは湖で静かに歌うバースデーソングが一番好きだったな。
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