ヨミ

劇場版 呪術廻戦 0のヨミのネタバレレビュー・内容・結末

劇場版 呪術廻戦 0(2021年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

星の光を観ること。
星は天文学的遠距離にあり、我々が観るのは遥か過去の姿としてしかありえない、というよく知られた(相対性理論的物理学下における)事実がある。
過去の映画を観る、ということも似ているんじゃないかと思う。
本作で行われる「百鬼夜行」は2017年12月24日と明示されている。同時に、本作の公開日は2021年12月24日と月日を合わせたものとなっている。また、「百鬼夜行」は新宿を舞台としており、12月24日の新宿には、最速上映を目的としたひとびとが集まったことだろう。つまり、本作は24日の鑑賞を逃した時点で速やかに過去の映画へと変貌する。それは本作が『呪術廻戦』という物語に対して持つ、「過去編」という性質にも付合しよう。
そして、周知のように映画はどうしようもなく光なのである。その発明者の名が光Lumièreであるという偶然の美しさは言うに及ばず、映画の本質は暗室を貫く一束の閃光であることは明白だ。だからこそ、光よりもむしろ発光板であるTVアニメーションに対して、過去である本作が映画として公開されたことに意味があるのだろう。

まあそんな与太話は置いておきます。
話自体は0巻を履修していたので基本的に事前に了解されたものでした。なので演出的なところを見ようとしたが、「マンガのアニメ化」については難しいですね。MAPPAの作画はすごいなあと思いつつも、多分TV版以上にぼくが受け取れたことがない。「キャラクターの進行方向と逆にカメラを振って疾走感を出すんだなあ」とか、「画面の事物のワイプなどで細々としたカットを繋ぐことで高速のテンポを出してる」とか。その辺は多分TV版から一貫した演出方針なんだろう。でも何が起こってるかわかんねー、という感じが原作読んでる風で面白い。アニメーションの技能のよって、マンガ的な難読性を別の次元でやってのけてる感じがある。(ちなみにですがこれはポジティブな評価です)
なので基本的に、高評価されているTV版『呪術廻戦』と同レベルの水準を持つアニメとして不足のないアニメ作品です。
ゼロ年代から10s初期の京都アニメーション、10sのシャフトやufotableなどに続いて20sはMAPPAがやっていくのだという気概がある。
しかし相対評価としては残念ながらそこまで抜きん出たものではない。というか、今年のアニメ映画が豊作すぎるので敵が悪い。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『竜とそばかすの姫』『サイダーのように言葉が湧き上がる』『アイの歌声を聴かせて』と、あまりに気合の入った映画が多すぎる……。頑張っています。

さて、誰もが思うだろう乙骨=シンジすぎ問題。特に一部で「スーパーシンジタイム」とまで言われている「死んじゃだめだ」連呼など。というか相当全編シンジなんだよね。
ここは低評価ポイントではない。というより、個人的にはシンジの演技が行われることがむしろ『呪術廻戦』という作品にとって本質的なのではないかと思っている。『呪術廻戦』は『HUNTER×HUNTER』すぎると言われているようだし、ぼくも思うが、それは恐らく相当意識的なのではないかと感じる。『呪術廻戦』は「サンプリングマンガ」なのだ。それは庵野秀明的、ということ。ぼくが高校のとき読んだ庵野秀明の文章で、「自分たちは何をやっても先人の真似にしかならない」と言っていた。庵野はそれに意識的であり、『エヴァンゲリオン』は『ナウシカ』+『ウルトラマン』なんてことは既に何度も言われている。つまり、もはや芥見下々は「サンプリング世代」以後の作家なのである。そしてそのサンプリング先は、冨樫義博であり、(本人曰く)伊藤潤二であり、そして庵野秀明も勿論あるだろう。
(調べてみるとどうもパクリかオマージュかというのが話題になったらしいが、ポスト・モダン世界にとって最早そんな議論は無意味なのである)
なので、シンジをサンプリングされたであろう乙骨が緒方恵美によってシンジを吹き込まれるのは正しい演出なのだ。なにしろ、乙骨-里香関係はそのままシンジ-ユイ関係と重ねられる。
サンプリング時代のマンガが『呪術廻戦』であることを製作側も十分に認識した結果が本作の演出といえよう。


あと、「スカスカエンディング」だとは聞いていたがあまりにスカスカで笑ってしまった。本当にKing Gnuの曲をかけるためのエンドロールでウケる。ぼくは楽しかったですが……。

あと、読切であった『呪術廻戦0』に比べて本作では『呪術廻戦』が普通があるために京都の戦闘が描かれたのが大変良かったです。
あと、ラストにおける五条から夏油へのセリフ(無音)が原作では小さな吹き出しだったのに比べて強調されており、関係性というのが強調されていました、ね。
ヨミ

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