おいなり

シン・仮面ライダーのおいなりのレビュー・感想・評価

シン・仮面ライダー(2023年製作の映画)
3.5
最初に良いとこと悪いとこを言います。

◯仮面ライダーオタクがもし仮面ライダーを作ったら……というifをしっかり金かけて見せてくれる
◯今どき珍しいめちゃめちゃ硬派な仮面ライダーが見れる
◯圧倒的ロケーションの良さ

×××カメラ振りすぎて激酔いするしアクションがよくわからない
×2時間の映画に詰め込みすぎ。敵オーグは3体くらいでよかった
×池松壮亮がなんか常にプルプルしてて気になる


たぶん賛否両論というかもしかしたらピ寄りになるかも?と思わんでもないけど、庵野秀明が自分の好きすぎる仮面ライダーを好き勝手作っていいと言われたら、まぁパンピー向けのもんは出てこんよなぁという。なんか「キューティーハニー」の頃の庵野秀明に戻ったような映画でしたね。


なにより、庵野秀明の思い描くド硬派な昭和の男・本郷猛as仮面ライダー。基本無口でニコリともしないけど人情味に溢れてて、理屈より感情で動くタイプ。そのわりに隣で女の子が無防備に寝てても手は出さない、紳士というか硬派というか、そういうダンディズムに溢れてて、シンジくんの対局にいるような存在でしたね。
(昔の)シンジくんにはある程度庵野秀明自身が投影されているので、そういう意味では「非・庵野秀明的な男」のようにも見えるし。アニメみたいな濃いキャラクターがいっぱい出てくる中で、ひとりだけ素で戦ってるというか、仮装大会に普段着で来ちゃった人みたいな感じがした。
でも、本作の本郷猛はとにかくカッコよくて好きです。

シン・ウルトラマンの時は当初、神永と浅見のキスシーンとか想定してたらしいけど、本郷猛は硬派で良かったですね。その辺も、庵野秀明のウルトラマン像と仮面ライダー像の違いなのかな。ウルトラマンは愛の戦士だからね。
シン・ウルトラマンはある種の超越性、人間から見たらそれこそ神にも等しい存在が、ただ人間を好きになったという理由だけで命張って同族とも戦うという、そういう映画だったわけですが。
仮面ライダーは等身大の人間として、敵を殺すことに戸惑いを感じながらも、守りたいものがあるから戦うという、人間臭さが全編通して貫かれていて。それこそエヴァブーム後に流行った「戦いたくない系主人公」に対して一線を引いたような、他に代替する言葉がないからあえてそう言うけど、「男らしさ」「男の美学」に回帰したような描き方が、仮面ライダーというヒーローが庵野秀明にとってどういう存在かを示しているような気がした。
庵野秀明の思い描く仮面ライダーとは「コレ」なのだと、もうその一点突破で作られた映画ですね。

でもなんでいつもプルプルしてるんですかね。池松壮亮さん。チワワか?



今回もスターシステムで過去作からいろいろ俳優が続投してたり、他の石ノ森作品への目配せがあったり、ファンサービスと言えなくもないけど、なんか単に自分の好きなもん詰め込んだった!感もあるし、ある種の責任感で終わらせたシンエヴァの堅苦しさから比べると、少なくとも脚本だけはのびのびやってんなという印象。

シン・ウルトラマンのダメだなってとこを「まぁ庵野秀明監督じゃないから」で納得してたけど、これ観た後だと精一杯パンピー受けするように頑張ってたんやなと樋口監督をちょっと見直した。この作品から漂う「社交性の有無」とか、オタクの早口講釈みたいな居心地の悪さが、シン・マンとシン・ライダーの最大の違いかな。
いくらテンポがいいとは言えさすがに勢いで色々詰め込みすぎだと思うので、なんかこっちをドラマにしてブラックサンを映画にした方が良かったんじゃないのと思わないでもない。



しかしそんな面白さを帳消しにしても余りある、カメラワークの乱雑さ……。
ただの会話シーンとかでさえ手ブレするカメラで撮られてるシーンが多くて、すごく落ち着かない。どころか、アクションシーンではもうカメラが演者に接写でゴンゴン振りまわされるし、暗いシーンも多いし、何やってんだかわかんない。
警察24時で違法風俗の店に警察が踏み込んでいくのを後ろから撮ってる時のカメラみたいだな。

さすがにわざとそう撮ってるとは思うんだけど、ほんとに、ここだけは、コダワリとかあえてそうする意図とかそういうの全部考慮してもなお、絶対に普通に撮ったほうがいいし今からでも撮り直してほしいくらい、ひとつも擁護できない。
VFXも正直よくない。ニチアサに2本くらい毛生やした程度のクオリティ。それならそれで別の撮り方もあると思うんだけど、等身大の生身のアクション撮れてないなぁという、なんかジャッキー・チェンがハリウッドにいった最初の頃の映画にも同じこと思った気がするけど、カメラワークじゃなくて演者の動きで魅せてほしかった。
いい加減「日本映画だからCGショボくても仕方ないよねー」を免罪符にするのやめてくれませんかね。日本映画のCGがショボいのは、VFXに金をかけないからだよ。

全体的に激酔いしたし、アクションシーンが始まるたび陰鬱な気分になった。アクションが華の仮面ライダーなのに。
2回目以降はアマプラで見直したけど、テレビ画面くらいのサイズだと非常にちょうど良いし、コントラストの違いのせいか暗い場面もだいぶマシに見れた。これ長尺版を全6話くらいのドラマとして再編してほしいな。


庵野監督はロケーション選びと止めの構図は完璧といえるくらい巧いんですけどね。夕日のシーンとか、絵画かってくらい美しい、完璧なカットだった。
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