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シン・仮面ライダーのrensaurusのレビュー・感想・評価

シン・仮面ライダー(2023年製作の映画)
4.2
孤独、反体制、改造された悲しみ、という仮面ライダーの構造を、現代に再解釈しつつ、肩身の狭いおじさんに、ノスタルジーというユートピアを。そして、庵野秀明節を効かせながら若年層へのアプローチを目指した作品。

スーツやマスクなど、ガジェットの美術と、ロケ地や構図や色彩などの撮影がとても良く、画面はほとんどが美しかった。

原作ではショッカー=日本政府だったが、今作では仮面ライダーが公安と手を結ぶという構造の転換が図られた。ショッカーは科学による人類の幸福を謳い、創設者が作成したAIによって、絶望した人間を改造によって救うという施しを行ったり、科学を用いたりして、利己的に幸福を追求していた。

また、今作の本郷猛は勝手に改造されたのではなく、心の内で改造を望んでいたという解釈になった。これは、人を守る強さを手に入れるには科学の力が必要であることや、科学は使い方が重要であることが含意されているように思う。

さらにはショッカー構成員は須く絶望を味わった元人間であり、各自のロジックで幸福を頒布させようとする、ある種人間味のある奮闘が描かれている。同じように絶望した人間である仮面ライダーが、「周りを変えるのでは無く自分を変えたい」と一人戦う姿はまさしく孤独なヒーローであり、悲しみを真に乗り越えることができたショッカーなのではないか。

オープニングの人体破壊スプラッター戦闘シーンは、視覚的な刺激や爽快感に加え、仮面ライダーの人間離れした力を示す意味でも最高のシーンだった。ぶしゃぶしゃと血が噴き出る様は絵力抜群だし、身体性を意識させる点においても効果的だった。

仮面ライダーといえば、ライダージャンプ、ライダーキックが重要であり、今作はどちらも非常に美しく、特にライダーキックは、画面に勢いよく迫る演出で、これだけで大興奮だった。

1号は意思を2号に継承し、マスクにプラーナを移すことでニコイチとなった。身体的には孤独でも、事実上ライダーは孤独をやめる結果となった。つまり、孤独、反体制、改造された悲しみは全て裏返るように克服されたのだ。

気になった点は、CGのクオリティだ。身体性に焦点が当たっている割には現実味のない映像が多く、身体性の気持ちよさを感じるためにももう少しスタント、特撮でやって欲しかった。キッチュと言うには違和感が強く、庵野映画のテンポ感と相まって変な夢を観てるような不思議な感覚になってしまうことが多々あった。

あと変身はお預け。私としては変身は無くても意外と満足出来たが。

仮面ライダーに止まらず、ロボット刑事K、イナズマン、キカイダーなどの石ノ森リスペクトが散りばめられ、おじさんはニヤニヤしたことだろう。

また、シンジくんっぽくクヨクヨする池松壮亮。レイとアスカのハイブリッドみたいな浜辺美波。チャラい柄本佑。シンシリーズ常連の竹野内豊、長澤まさみ、斎藤工。まさかの声だけの松坂桃李。ちょっとクールな西野七瀬などと、俳優陣は皆粒揃いで良かった。

シン・ウルトラマン、シン・仮面ライダーと来て、シンシリーズの乗り方も分かってきたので続編も是非やって欲しい。
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