このレビューはネタバレを含みます
シン・仮面ライダー観た……!
良くも悪くも庵野さんが作った作品という印象ではあるけど、思ってたよりは全然おもしろかった。
シンウルトラマンでは「総体としての人類」みたいなデカいものを、丁寧に説明する気もないのに無理矢理語って破綻してたと思うんだけど、今回はストーリー的にもテーマ的にもかなり個人的なものが根底にあって、それが仮面ライダーっていうモチーフにしっかり合致して不可分になっていてとても良かったと思った。
基本的にしっかりと感情のあるキャラクターが最後まで個人的な目的で戦っていて、人々を守るのはあくまで副次的なものとして描かれてるのがスマート。
イチローについても憎んで倒すのではなく、考えを尊重し共感しつつも、真っ向から否定して止めるために戦うっていうスタンスが貫かれていて、勧善懲悪で単純に断罪することなく常に自身を省みながら闘う仮面ライダーらしさがすごく出ていたと思う。
(敵を敬語で説得するの、萌え度高い)
本郷が経歴を話すシーンとかはハイライトだった。
理不尽に愛するものを奪われたことを単純に恨むではなく、そこから何を得て、自分がどう振る舞っていくのか、というところまで明確に言葉にできるの、自立したカッコいい男の姿だと感じた。
(キャラはみんな自立しててほんとカッコいい。)
また、庵野作品として観たときに、たとえば人間を強制的に精神世界に連れて行って彼我の境をなくすことが幸福だという蝶オーグの思想ってモロに旧劇の人類補完計画なんだけど、それに対して発案者である浜辺美波が「間違いだった。真っ当な生を生きるべき」と明確に否定するシーンは、旧劇を経てシン・エヴァの結末を見たときのカタルシスに通じるものがある。
シンウルトラマンでの表面だけ取り繕って冷笑するような態度は鳴りを潜めて、全体的にシン・ゴジラに近い形で人間讃歌を打ち出してたのが好印象だった。
ただ、これらの良いところって庵野作品であるっていう前提に成り立つものがわりと大部分を占めているように感じられるんだよね。
あくまで庵野さんの中での話であって、最大公約数的にざっくり共感することはできても、身につまされるほどのインパクトや切実さは想起されない。
どんな題材であっても、良くも悪くも、庵野さんの作家性(趣味と実益)を多分に含んだ作品になってしまう。
そういったエッセイ的な要素を良しとするかどうかで好みが完全に分かれるのはいつものことかなと思う。
毎回Twitterとかでバズる感想が「庵野やりやがった!キャッキャ」「マニアックすぎるぞ!キャッキャ」ってやつばっかりなの、だいぶかわいそうだな、と思うけど、観てみると上に書いたようなところがあるのは否定できないと思う。
実際、いろんな感想を見ても「別のシリーズも見てみたい!」「今やってるやつ見てみようかな!」「やっぱ仮面ライダーっていいよね!」っていう感想ってほとんどないんだよね……。
それって『仮面ライダー』っていう50年続く素晴らしいタイトルを銘打った作品としてどうなんだろうか、という平成ライダーファンの意見。
仮面ライダーという存在のオリジンと不可分なストーリーや自立したキャラクター、童心をくすぐる演出など、予備知識なしで観て楽しめる作品ではあるのは間違いないけれど、庵野作品であるという文脈からはどうも逃れられない、そんな作品だった。