Hiroki

シン・仮面ライダーのHirokiのレビュー・感想・評価

シン・仮面ライダー(2023年製作の映画)
3.6
公開週末の夕方頃という事でほぼ満席。
そもそも最近行くかなりの数の映画館で特集していて東映の力の入れ具合が見えます。
しかしその気合いが少し空回りしたのか、通常公開開始になる金曜日に各主要キャストが全国に散らばって最速上映舞台挨拶をするためにかなりスクリーン数と上映数を絞っていました。
そのため初週興収は約5.4億で『私の幸せな結婚』の約6.5億に次ぐ2位。
これは金曜から通常の規模で公開していたら1位になっていたはず。
私の幸せな結婚を舐めていたのか。
別に初週で下げても巻き返せると見込んだのか。
詳細は不明ですが2週目が終わり約11億、私の幸せな結婚が約13億でさらに若干ですが差をつけられる結果に。
そもそも私の幸せな結婚は2週目で2023年の第5位にランクインする勢い。すごい。
しかし今年は随分出足が悪いなー。
2022年は3月までにスパイダーマンNWHやシング・ネクストステージ、余命10年など最終的に30億を超える作品がでてたのだが...
まー毎年コナン公開くらいから興収戦線は本格化していくのでこれからでしょうか。
ちなみに今作は『シン・ウルトラマン』の興収(約44億)にも及ばなそう。
『シン・ゴジラ』からどんどん興収も製作費も落ちているような気がする...
ここはしっかり注視していかないとですかね。

さて内容ですが、もーこれは圧倒的に庵野秀明だった!
誰かが“浜辺美波レイ”と上手いこと言っていたけどまさに浜辺美波演じる緑川ルリ子は綾波レイだったし、池松壮亮演じる本郷奏多は碇シンジだった。
そもそもシンウルトラマンの時もそーだったけど、構図やカットが圧倒的にエヴァ。
もちろんショッカー軍団がジャンプしていく所を下から撮るカットなど仮面ライダーアングルもあったけど、真上から撮る構図やバストカットを一瞬差し込んだり、話している人々の顔を捉えないなどなど圧倒的にエヴァアングル。
まーそもそも庵野さんは「アニメは構図」というほど構図にこだわっているので実写になってもそれはそうかと納得。
しかしアニメーション的で日本の安い映像作品のような説明ゼリフを多用していたのはいただけない。
普通に1人で歩きながら自分がこれから何をしようとしているか、何のためにするのか喋ってる人っていますか?
そりゃアニメーションだと細かい表情や仕草を描く事が難しいからその行為が必要なのは理解できる。
ただ実際の役者が演じているんだからそれは役者の表情や仕草などの演技で表現するべき。
これは非常に安く(もしくはアニメ的に)感じました。

あとはオープニングから仮面ライダーがどんどんショッカーを殴り倒していって、ばんばん血しぶきが飛び散って本郷猛(池松壮亮)がいとも簡単に人間を殺してしまう描写が印象的じゃないですか。
その割に中盤あたりからここらへんの葛藤とか苦悩がトーンダウンしてしまうんですよね。
たしかにセリフでは「私は戦いたくない」みたいに言ってはいるんだけど、そこのバックグラウンドや戦う事を決意する動機づけみたいなものが異常に弱い気がした。
そしてその代わりに中盤から多用するのが安いVFXと暗がりのアクションというのもまた...

ほぼ全てのキャストの全体を通した抑揚のないセリフ回しや無表情な演技は濱口竜介を思わせるけど、今作におけるその意図はなんだったんだろう?
思えばロケーションもかなり無機質で生活感のない場所ばかりを使っていたような。
登場人物にも徹底して感情移入させない。
ただとある批評家の人が言っていて面白かったのが「エヴァシリーズやシンシリーズによって散々自分の苦悩や葛藤を観客に知られてしまい、望まなくても過去作との繋がりや伏線を考察される庵野監督にとって、もはや劇中の登場人物に感情移入させる必要はなかった」と。
これは非常に興味深い視点だった。

あと昨今ドクターズや鬼などなど日本で流行りの“仮面”を被っている時、声が異常に聞き取りづらかった。
そりゃリアルに考えたら仮面しているんだから声は聞き取りづらくなるだろうけど、映画というか映像作品においてそのリアリティ必要ですか?
後半1号と2号(柄本佑)が話している時とか半分くらい聞き取れないシーンありました。

キャストに関しては、浜辺美波は良かったと思う。途中明らかに浜辺美波じゃん!というシーンもあったけど。
池松壮亮、柄本佑、森山未來という手練れに囲まれながらなかなか難しい役を乗りこなしていた。
長澤まさみは『エルピス』で、西野七瀬は『恋は光』で見せた名演は見る影をひそめ、明らかに役とミスマッチ。(そもそも長澤まさみは友情出演的なスポット参加だったが。)まーコメディリリーフ的な役どころというか一般的な観客への配慮という感じなんだろうけど、この作品にそれは必要ない気がする。
それをやるなら私の幸せな結婚のような映画を撮ればよいだけ。
良い悪いではなく選択の問題。
少し覚悟と決断が足りなかった印象。

まー色々文句を言ってきましたが、竹野内豊と斎藤工ががっつり登場した事によりこのシン・ユニバース(なんか少し前に“シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース”としっかり名前が付けられたみたいです。現状はメディア・フランチャイズという位置付けらしいが...)がどんどん加速していくだろうという事は非常にワクワク。
もー企業の垣根とか取っ払ってMCUやDCEUみたいなシェアード・ユニバースを作っていかないと、本当に日本の実写映画は終わる。
多少の事には目をつぶっても、なんとか庵野さんの手でゴジラvsウルトラマンvs仮面ライダー(vsエヴァ?)を実現させて欲しい。
他にもジブリでもドラゴンボールでもポケモンでも、ボーダーを超えていく作品は何でも取り入れたらいいんですよ。

そーいう世界で戦える日本の映画が作れる土台を、自分の望むモノと他人が望むモノの狭間で揺れ続けたきた庵野秀明という人は、手に入れつつあるのだから。

2023-20
Hiroki

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