サトタカ

シン・仮面ライダーのサトタカのネタバレレビュー・内容・結末

シン・仮面ライダー(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

けっこうな初老なので、仮面ライダーは6歳というまさにドンピシャのタイミングで観ていた。いかにも男らしい本郷猛が悪の組織ショッカーにバッタ人間に改造され、脳までいじられそうになるが、すんでのところで脱走し、孤独なヒーローとしてショッカーに立ち向かう。それも、やけにかっこいいオートバイに乗って。
毎回、気持ちの悪い怪人が代わる代わる出てきて話を回すわけだが、何やかやあっても結局ライダーキック一発でやっつける仮面ライダー。子どもの僕は夢中になった。テレビのタイミングに合わせて年上の兄にキックしたりして(弟に合わせてごっこ遊びで怪人役やってくれてありがとう、アニ🙏)。

仮面ライダー・スナックが発売され、カードを集め、そのカードを入れるアルバムが欲しくて仕方がなかった。運良くラッキーカードを引けないともらえないとか、そんな仕組みだった。人気が加熱した頃は、路地のドブにスナックが何袋も積み重なって捨てられていたのを覚えている。カードだけ取って捨てる不届者が大発生したのだ。(小学校の全校集会で注意された思い出)

この映画では初代の仮面ライダーが全面的にフィーチャーされ、ライダーのデザインやカメラの画角、背景などなど細部に至るまでオマージュが多いようだ。
そもそも変身の必要条件としてベルトの風車を回すためにバイクに乗っていたんだよね、仮面ライダーは。バイクに乗る必然があった。後にこの設定は無かったことのようになるわけだが…。思い返してみれば、女性のバイク乗りなんて峰不二子ぐらいしか思い浮かばないレベルの当時、バイクはワイルドで命知らずの男が乗るマシーンだった。

昭和という時代もあり、初代の仮面ライダーはオトコオトコした豪快な大人の男だった(しつこい)。
藤岡弘の骨折により急きょ登場した仮面ライダー2号、一文字隼人は一転して線の細いクールキャラであったが、意志の強い男らしさも併せ持っていた。
基本、男らしいけど宿命のような不幸を背負ったタフガイが毎エピソードごとに、とにかくキモくて悪いことばっかり考えてる怪人と孤独に戦ってライダーキックで勝つという水戸黄門的な美しきワンパターン。
キャッチーな主題歌と相まってワンパクな男の子たちのハートを鷲づかみしたのだった。

ところがこの『シン・仮面ライダー』ではエヴァンゲリオンのシンジくんほどでないはないが、内向的でやさしく、女性にジェントルな本郷猛になっていた。演じた池松壮亮はプロポーションのせいか公称の172cmよりも小柄に見え、180cmでガタイもよかった藤岡弘とはかけ離れている。
四分の一少年、四分の一大人、半分バッタという感じだろうか?藤岡弘は大人のオトコが7割、バッタが3割ぐらいのイメージ、超適当だが。
有害な男性性が責められる令和の時代に、エヴァの庵野監督が作ればそりゃこうなるわな。

一方、政府の男、立花(竹野内豊)は立派な大人の男だった。(立花って、タチバナレーシングのおやっさんと同名?)登場人物の中で唯一といっていいような、わかりやすい大人の男。シン・シリーズを通して、謎に信頼できて、世の中の仕組みを妙にわかってる有能な人物として登場している。

長澤まさみのサソリオーグ姿とか、テレビで流れたメイキング映像での傍若無人な庵野監督とか、映画館で観た知り合いの酷評などで、ハードルを下げまくってアマプラで観たのがよかったようで、思いのほか良作に思えた。

棒読みの説明セリフのオンパレード、どうしてもチープに見えてしまうCG、大袈裟に登場して簡単にやられるショボい怪人、Kがロボット刑事の匂いをさせつつろくに機能しないまま終わったりするのは多少気になったが、元々の初代仮面ライダーシリーズを思えば許せる気がする。けっこう雑な話だったから。でもその粗さ、男くさい荒っぽさに魅力があったのだ。

エヴァの人類補完計画やオウム真理教を思わせるプラーナだのパリハライズだのユートピアだののくだりも、庵野監督の脚本だから仕方ないというか、いいんじゃないかな。よくわからんけど。幸せと辛いが線一本で〜って話は金八先生的な説教くささがあって個人的には好かんな。顔晴るとか人財とかいうノリに近いものを感じてしまうんで。

森山未来のチョウオーグは、サナギから蝶に〜とかいうから「すわ、イナズマン?イナズマンかっ?ロボット刑事もいるし!石森ユニバース?!」と一人色めきたったんだが、空ぶった。残念。

皆さんおっしゃる通り一文字隼人(柄本佑)がおいしいところをゴッソリ持っていったようだ。彼は…ほぼ青年という感じだったかな?自由な、放浪する詩人ランボーみたいな。あ、でももう少し正義感があるか。

最後、彼の装着した仮面から聞こえてきた「スピードを上げてくれ一文字。俺たちはもう1人じゃない、2人でショッカーと戦おう」という本郷の言葉には泣かされた。
人は一人では生きられない。孤独を愛する一匹狼とつっぱっていても、実際は周囲の人間に助けられているものなのだ。たとえ亡くなってしまった友であっても、力になってくれる。

一気に大人になった本郷猛に、自分まで励まされているように感じた。



そういや少年二人が一人のヒーローになる『バロム1』っていうのもあったよね…。
二人がケンカすると変身できなくなるという。今考えてもおもしろい設定だ。
サトタカ

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