ヨーク

ロックダウン・ホテル 死・霊・感・染のヨークのレビュー・感想・評価

3.1
俺がこの映画を知った予告編の冒頭で釈由美子が「撮影時にはまさかこんな(新型コロナによる)パンデミックが起こるとは思ってもいなくて期せずして予言的な映画になってしまいました…」とかそんな感じのことを言っているのを観て、あぁこれは多分他に売れる要素がないからコロナと結び付けてるんだろうな…つまり映画としてはダメっぽいな…TOCANAだしな…、と思ったのだが映画は観てみないと分からない、実際に今の世相にグッサリと刺さるような感染ホラーになっているのかもしれない、と恐る恐る劇場へ足を運んだのだがまぁダメでしたね。まごうことなきダメ映画ではあった。
でもダメではあったが完全無欠のクソ映画かというとそんなことはなくて、良いところは確かにあったし惜しいなぁと思うところもあったのでクソ映画の一言で済ましたくない映画でもあるのだ。あと釈由美子の海外進出作! みたいな惹句をよく見かけてそれは別に嘘でも何でもないのだが主役はカロライナ・バルトチャクという女優さんで釈由美子はあくまでも脇役なんですよね。
お話はそのカロライナ・バルトチャクが夫と息子と共に家族旅行かなんかで車に乗ってホテルに向かっている最中に妊婦の釈由美子が道の真ん中で突っ立ってて彼女にクラクションを鳴らすところから始まる。カロライナ・バルトチャクは妊娠してる女性相手にそんなにぎゃんぎゃんクラクションを鳴らさないでと夫を窘めて車を降り、釈由美子と一言二言会話をした後に目的地のホテルへ向かうのだった。ホテルに着くと奇遇なことに釈由美子も同じ宿に泊まるようでまた廊下で立ち話をする二人。しかし二人はその後に恐怖の死・霊・感・染が待っていることをまだ知らないのであった…という感じでしょうか。ちなみに新型インフルエンザが大流行しているという設定なのでその部分は確かに今の時勢とドンピシャで被ってはいる。
正直この冒頭の掴みの部分はかなり良かったと思う。実は釈由美子はDV夫から逃げ出してホテルに一時避難しているという経緯があり、カロライナ・バルトチャクもまた一見家族旅行をしているようにしか見えないが会話のそこかしこで夫からDVを受けていることが察せられるのだ。そういう不穏な関係の夫婦と幼い子供、そして雪深いホテル…となると『シャイニング』っぽい雰囲気だし、実際ホテルの廊下とか『シャイニング』っぽい感じで意識してんだろうなこれって感じではあった。カロライナ・バルトチャクと夫の関係も間に子供を挟みながらでないとコミュニケーション取れない感がバチバチにあってふとしたきっかけで夫の暴力性が爆発しそうなハラハラ感とかも上手く演出されているのだ。それに加えて釈由美子の如何にも訳ありそうな感じもあるし二人のDV被害者の女が同じホテルの同じフロアにいて、その内の一人は妊娠していてという状況でここから密室的なサスペンスが始まりそうだと思うとワクワクもするだろう。なんかますます『シャイニング』っぽくなってくるなと思うが映画を観ていてこの辺から、あれ? これもしかして死・霊・感・染の要素なくてもいいのでは? という気がしてくる。
まぁその先は君の目で確かめてくれということで詳しくは書かないが死・霊・感・染の要素は完全に足を引っ張っていたということだけは記しておこう。大体が参考にしたであろう映画版の『シャイニング』が原作にあるエスパーバトルな要素を完全に削って家庭内暴力とホテルの呪いにフォーカスすることでドメスティックな恐怖を描き出すことに成功していたのに本作では中途半端な感染症要素を入れたことで収拾がつかなくなっているのだ。夫婦間の軋轢を感じるような会話ドラマの部分は結構よかったのに台無しである。
死・霊・感・染とか言ってるのは多分国内用の宣伝のために配給会社が勝手につけた文句だと思うがお前ほんとどの面下げてこんなサブタイトル的なものつけてんだよって思うよ。まぁ確かに釈由美子はウイルス的なものか死霊的なものかは分からんが何か感染してめっちゃ苦しんでたけど! んでその苦しみながら廊下でのたうち回っている様は何か前衛舞踏みたいで凄かったけど! いや釈由美子はほんとに凄くいい仕事してましたよ。というか役者陣はみんないい芝居してたよ。だからこそ何でこんなことになってしまった感が凄いのだが、何でこんなことになったんだろうね。
でもここまで清々しい投げっぱなしな映画もそうそうないのでなんか凄いなって思うし、本作は先日感想文を書いた『東京クルド』とハシゴして観たんだけど『東京クルド』で現実のクソさに絶望した直後だったのでこの作り話のクソさはむしろ俺に勇気を与えてくれたところはあったな。それはマジでそう思った。
上手く言語化できないんだけどこういう映画を劇場で観ると救われたような気がするときがあって、今回がそのときでした。多分タイミングが悪ければボロクソに言ってると思うけど、俺はこの映画観て良かったなぁと思うよ。スコアは低いけど。あとやっぱチェンソーマンは良いこと言ったなぁと思い直しましたね。なんかこういう映画が形だけでも成立していてそれに金を払う客がいるってことは悪いことじゃないと思うんだよな。どっかに居場所はあるじゃんって気持ちになるというか何というか。まぁ映画として面白くはなかったけどさ。でも観て良かったと思うのは本当だよ。
『食人雪男』も観に行くからな。
ヨーク

ヨーク