somaddesign

そして、バトンは渡されたのsomaddesignのレビュー・感想・評価

そして、バトンは渡された(2021年製作の映画)
5.0
今年は田中圭の出演作ばかり見てる気がする

:::::::::::

料理上手な義理の父・森宮と2人で暮らす高校生優子。卒業を間近に控え、将来のことや未だ馴染めないクラスに悩みながら、卒業式のピアノ伴奏を押し付けられてしまう。一方、夫を何度も変えながら自由奔放に生きる梨花。泣き虫な娘みぃたんに精いっぱいの愛情を注いでいたが、ある日突然、娘を残して姿を消してしまう。
第16回本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの同名ベストセラー小説の映画か。

:::::::::::

原作未読。
大人の勝手に振り回される子供の話だし、構図でいえばネグレクトっぽい。けど、子供から大人へと成長し、自立して自分の家庭を築こうとしたとき、親が与えてくれていた愛の深さを知る物語。一人暮らし始めると親の有難味に気付くってあるあるのスケールアップした感じ。優子は貧乏した時期もあるけど、絶えず愛を注がれて育ってるのよね。
叙述トリックものかと思ったら、まんまストレートな構図。時系列と人名をズラした意味がよく分からなかったのもある。

人間の多面性についての映画にも思えて、自分から見えない部分にも世界が広がってることを改めて知らされる。情報を受け取る順序や語口次第で、人の印象が何度も反転してしまう面白さと危うさ。

とても良くできた話だけど、小説ならともかく実体ある人間が再現するとエグ味が出てきちゃう。なんかもうみんな勝手すぎて、終始イライラしちゃった。(序盤から匂わせてるとはいえ)設定の後出しジャンケンが多くて、いや待ておい。
水戸さんからして相談もなしに物凄く重要なコトを決めちゃうし、子供のためを思うなら学校とか生活環境とかどう考えてたのか。あ、考えてないのか。
泉ヶ原さんも手遅れになる前にちゃんと言おうよ! 手遅れてから懺悔されましても!あんた何気にキーマンでしたよ。
森宮さんの献身は素晴らしいけど、優子の言うようにピントがズレてるトコロがあって、軽々に大事な話を打ち明けにくい。秘密にしても手遅れになってから後悔しなさんな。

ことほど左様に、映像化に際して随所に引っかかりどころが多い。
まず石原さとみ・田中圭・大森南朋…が同世代って、無理でわ。事情を考慮しても梨花の奔放な性格はどうかと思う。結果的に「男性に頼らないと女一人の子育てで幸せとか無理」ってメッセージにもなり得て、なんだかなあとも思う。


フード描写でいえば、チョコレートケーキやロールキャベツ、回鍋肉etc…料理が苦手な梨花の分まで、その時々の父親の愛情の具現化として機能してる。泉ヶ原さんは料理はしないので、高級な菓子類や料理人のご飯が食卓に並ぶ。見た目はいいけど充足感がない空虚な幸せを強調する描写だけど、泉ヶ原さんなりには愛情はあったはずなのでちょっと切ない。
梨花さんの「料理が苦手で愛娘のためにご飯を作ってあげれない」って暗喩。梨花さん自身が抱えるある問題のことであるし、伝わらない愛情のことでもある。どんなに心では愛してても、誰かを頼らないと親子共々食うにも困る負い目の表現にもなってる。梨花さんはみぃたんを愛していつつも、幸せに出来ないことを自覚してたように見えた。そんな状況、心散り散りになるだろうな。

あの結末は見ようによっては、人をバトン扱いしてるみたいで意見が別れそう。自分は「不断の努力で維持される家族の幸せ」についての責任を「バトン」と表現したんだろと思う。
感動的な大団円なラストだけど、早瀬くんの移り気な性格を考えると、数年後あのバトンが返される未来もあり得るので、森宮さんはまだまだ油断ならない!と思った。


71本目
somaddesign

somaddesign