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そして、バトンは渡されたのよーだ育休中のレビュー・感想・評価

そして、バトンは渡された(2021年製作の映画)
3.5
父子家庭に暮らす森宮優子(永野芽郁)は、『母親が二人、父親が三人』いて、どんなに辛いことがあっても笑顔を絶やさない女子高生。三人目の父親(現在の同居人)の影響で料理人を志す彼女は、ピアノが上手な同級生の早瀬くん(岡田健史)に淡い恋心を抱く。


◆親たちがついていた命懸けの嘘と秘密ー。

2019年に本屋大賞を受賞した書籍を実写化。血の繋がらない親たちの間を渡ってきた少女の成長が描かれています。原作小説は未読ですが、映画では《血の繋がらない父と暮らす高校生の優子パート》と《血の繋がらない母と過ごした幼少期のみぃたんパート》が交互に描かれていました。

泣き虫で「いつもみぃみぃ泣いてばかり」だった『みぃたん』が、どのような家庭(過程)を経て、今の生活に至ったのかが前半部分で描かれています。


︎︎︎︎︎︎☑︎ 実の母親、水戸香織
彼女が物心つく前にこの世を去ってしまう。

︎︎︎︎︎︎☑︎ 実の父親、水戸秀平(大森南朋)
夢のある人。夢を追いかけ、起業するために単身ブラジルへと移住してしまう。

︎︎︎︎︎︎☑︎ 二番目の母親、梨花さん(石原さとみ)
魔性の女。自由奔放であるものの、義理の娘(みぃたん)に対する愛情はとても深い。どんな時でも笑っていることの大切さを教えてくれた。

︎︎︎︎︎︎☑︎ 二番目の父親、泉ヶ原さん(市村正親)
資産家の高齢男性。「ピアノを習いたい」というみぃたんの希望を叶えるために梨花さんが再婚した相手。

︎︎︎︎︎︎☑︎ 三番目の父親、森宮さん(田中圭)
東大卒で大企業に務めている頭の良い梨花の同級生。「この家は息が詰まる」という理由から泉ヶ原と別れた梨花の再婚相手。人付き合いは苦手。優しくて料理が上手。


◆私は、最低の母親でしたー。

物語の後半は《優しかった梨花さん》が急に居なくなってしまったのは何故か。という点にいよいよフォーカス。優子が早瀬くんとの結婚を真剣に考えた末に《親巡り》の旅を始めたことから全ての謎が明らかになります。

率直な感想として、お涙頂戴エピソードとしての意外性はありませんでした。

女手一つで血の繋がらない娘(みぃたん)を育てた梨花さん。熱がある中みぃたんと一緒に遊んであげたり(先日、38℃の発熱の中、何も知らない息子にせがまれて庭でサッカーの練習に小一時間付き合いました...。辛さと愛おしさはよく分かります。)、一見派手に見える彼女の慎ましい暮らしぶりには、確固たる愛情を感じました。

みぃたんに喜んでもらいたい一心で行動していて、婚活も再婚も含め全てみぃたんを中心に考えていたことは容易に見て取れました。優子の高校卒業式に駆けつけた様子を示唆するカットも(奥さんと「旅立ちの日に」をハモリながら観ていましたが)ちゃんと気が付きました。


梨花さんが姿を消した理由は、まるで《猫みたい》で、らしいといえばらしいですし想定以上のものはありませんでした。ここまでみぃたんに親身になれる理由に《梨花さんと実の母親との関係》が何かあったのではと訝っていましたが、何も無かったことにむしろ驚いたくらい。優しいエゴですが、残される側も残す側もきちんと「さよなら」を言いたかったろうに。


◆そして、バトンは渡されたー。

ストーリーはありがちでしたが、愛情のバトンが多様な形で繋がっていた今作に生命の本質を感じました。

生命の目的は聖書にも書かれているように《生きること》そして《殖えること》だと思っていますが、人類の敷いた資本主義経済や独自の価値観は《種としての幸福》以上に《個としての幸福》を優先する傾向が強くなりすぎていると感じます。(もちろん良い悪いは別として。)

親が子供をー。

子供が親をー。

比較的治安が良いとされる日本であっても、そんな痛ましい事件を耳にしない日は少なくありません。恐ろしい事件が今日も日本のどこかで起こっていると考えただけでゾッとします。《闇バイト》に手を染めるゼット戦士たちが後を絶たないことや、岸田総理が不退転の覚悟で臨むと息巻いている少子化問題も、突き詰めれば同じ根っこに帰結しそうな気さえしてきます。

娯楽(誘惑と言い換えても良いかもしれません)が溢れ、個人的・社会的責任を放棄してしまう大人になりきれていない《こどな》が増えてしまった今の社会に足りないのは、今作のような《愛情のバトン》を渡すことなのかもしれないなと思いました。

今作に出てくる人がみんなあまりにも良い人すぎて現実味はありませんでしたが、故に素敵なお話でした。