KnightsofOdessa

走り来る男のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

走り来る男(1989年製作の映画)
4.5
[ローラン兄さんが戻ってくる!] 90点

ラストのキスシーンだけで満点あげてもいい気がしている。酔っ払って自宅納屋で火事を起こし、結果的に浮浪者を殺してしまった兄弟。罪を被った兄ローランは10年服役し、その間に弟ジェラールは美しい妻アニーと結婚し、可愛らしい娘アンナが生まれ、あの実家で快適な生活を送っていた。そこに服役を終えたローランが帰ってくる。というお話。ジェラールの罪を被ったことを唯一知る獣医ベリノとの怪しい関係性がチラつく中で、故郷に帰還したのに異邦人となった男が、実家だったはずの家の周りを彷徨う精神的西部劇とも呼べるだろう。帰宅するなり"お~これまだ取ったあったんだ~"と言いながら猟銃を手にするみたいなヒリヒリするような緊張感と、除け者にされた犬との刹那の交流みたいな寂寥感が交互に押し寄せ、特に決定的な出来事が起こらないままそれらが延々と持続していく。兄弟の関係性は観終わってもよく分からないんだが、それや事件の真相を解明する役目を負うサンドリーヌ・ボネールが、その渦の中に巻き込まれていく様が、映画を観ている我々とリンクしていて、だからこそあのラストシーンが余計に感動的に思えるんだろう。このシーンではY字路というロケーション、妙にセンチな音楽、ぐるぐる回るステヴナンとボネール、全てが神がかっている。

一番巻き込まれたと言えるのは、乱高下する上司の機嫌を間近に観ていた名もなき下っ端くんだろう。半狂乱のアニーが収穫中のジェラールのもとに走ってきたシーンで、呆れた表情を見せるこの男こそが、実は観客である我々と最も近いのかもしれない。
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