ももすけ

太陽とボレロのももすけのレビュー・感想・評価

太陽とボレロ(2022年製作の映画)
4.3
音楽の力を信じ抜いた監督。それぞれの役割を実直に演じ切った俳優の皆さん。映画ならではの画の美しさ。すべてが相まって、ステキな作品となった。

良くも悪くも、スルスルと、なんの抵抗感もなく見られる。監督の人柄をそのまま映したような作品なのだろうなと、納得する。
本当は、日曜劇場あたりで、メンバー一人一人の人生に焦点を当てながら、最後に向けて収斂していくような、連続ドラマ向けの内容ではなかったかな。もっともっと掘り下げたところまで見たかった。


以下ネタバレ






檀れいさんの美しさ。
檀ふみさんとの檀つながり親子キャスティングは、「駄洒落やん」と密かに吹いた。
石丸幹二さんとの関係性もとても素敵で、この恋模様も、もっとたっぷり見たかった。

河合我聞さんと原田龍二さんの異母兄弟対決も。
六平さんや藤吉さんの物語も。
それぞれの人生にそれぞれのドラマがあり、「音楽を続けるには、何かを犠牲にしなくてはならな」かった、その生き様を、見せてもらいたかった。

どうでしょう、ドラマでもやりませんか!!!?

だって、ここまででお分かりのように、登場人物の名前が、ほとんど覚えられないんです!それが気にならないほど、スラスラ見られるんです。
膨らませてほしい欲、半端なくなりました。

こういう物足りなさが、批判的な気持ちに一切振れないのは、やはり音楽の持つ力、そして、文字どおり、いや、画面どおり、「西本智実に始まり、西本智実に終わる」、この圧巻のカッコよさに打ちのめされ、平伏さざるを得ないからでしょう。
それくらい、圧倒的だった。
省略はあるとはいえ、セリフを挟んだりカットしたりせずに全部聴かせた、そして見せた構成が、この映画の全て。音楽への愛、映画への愛そのものだった。

西本さんの指揮にはもちろんいつも強烈なカリスマ性を感じてはいたけれど、今回ボレロを振る西本さんを初めて見て、「あー、シルヴィギエムの再来は、バレエダンサーではなく指揮者から出てしまったのだなあ」と悟ったのでした。

その美しい動きが、鋭い視線が、世の音全てを呼び覚まし、火をつけ、燃え上がらせ熱狂に導く。まさに世を統べるミューズが、熱情が燃え盛り燃え落ちるカタルシスを描き切るその一部始終。

まさに、この映画とリンクしますね。
ボレロ中盤から、楽団員さんと一緒に泣きっぱなしでした。しかし一瞬たりとも、視線を外せなかった。
このクライマックスを見るために、再鑑賞しそうな勢いです私。


最後に推しのことを書かなくては!

カメレオン俳優が偉いとは全く思っていないわたし。
しかし、町田啓太さんの、「物語の一角となる力」はすごいといつも思う。
カッコよさ全開で目に突き刺さるようなイケメンを演じるかと思えば、ちょっと危ない変人を演じたり、金髪の暴れん坊になったり。
本作でも、まともに見たらウットリするほどの美形なのに、なぜだか風景に同化するほど、「ごく普通の、どちらかというとさえない日常を送る青年」になり切っている。

不思議な俳優。

森マリアさんは、初めて見た女優さんだったけど、ピュアで前向きな雰囲気が、作品の味わいにぴったりで、この若いふたりの恋も微笑ましく、監督が温かい視線を注いでいるのがわかる。

ほんとに楽しかった。また見に、聴きにいこ。
ももすけ

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