真田ピロシキ

ミラクルシティコザの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

ミラクルシティコザ(2022年製作の映画)
4.0
去年7月からギターを始め今月エレキギターにも手を出して音楽熱が最高に高まっているのでロック映画でも見ようと思って探したら目に止まったのが本作。舞台が去年行った沖縄で、1972年と2022年を股にかけたタイムスリップコメディというのに惹かれる。

70年代のコザで伝説的人気を誇ったバンド インパクトのボーカル ハルを祖父に持つ翔太。バンドは沖縄返還した1972年に解散していて、現在のメンバーは起業して成功したドラムの比嘉以外は昼間からクダを巻いてる爺さん。翔太も全くうだつの上がらない実家暮らしの28歳。そしてコザは閑散として、ありきたりな再開発計画としてモール建設が進められている。こういう衰退していく光景は沖縄は基地があるのでまた特殊な事情が加味されるにしても全国の地方都市が抱えてて、さらに高齢化も重なる。中坊が元ギターの平良に蹴りを入れる(返り討ちにする)姿や、口先ではリスペクトを述べながら実際は年寄りにはとても読みにくい契約書で騙くらかし、バレると「老い先短い奴らがグダグダ言うな」みたいなことを言う集団自決メガネ成田悠輔の如きクソ開発業者の描写が実にニッポンで沖縄の人でなくても分かる。

自分はド左翼な人間なので西村博之のような冷笑カスが煽ってた反基地派ヘイトに強い怒りを抱いているが、沖縄の民意が一枚岩ではないことは分かってるので、理解者みたいに思うのはおこがましくてできない。この映画はどんなスタンスにしろ内地人には撮れない多層のレイヤーがある沖縄が描かれていると思え、特に米兵への立場に見て取れる。現代人の翔太は72年沖縄の人に「何でそんなにアメリカ嫌い?」と聞くくらい自分が生まれ育った土地の歴史に無頓着でそういられる立場でもあった。だが比嘉は米兵に妹を殺されていて米兵とは話をするのも嫌なのである。悪役となるヤクザ者にしたって米兵を心から嫌悪してるのには似たような事情があるかもしれないと匂わされる。翔太と仲良くなった米兵ビリーがコザ暴動の時に殺されそうになり静止しようとした翔太に比嘉が妹のことを話すのだが、その時の受け答えが「ビリーが殺したんじゃない」「わかってる」という頭では理解できてても許せない現実。リンチしてた人達も生まれは近くてアメリカによって分断されている沖縄の姿が如実に映し出される。それは今も続いていて大きな問題提起。ビリーは米兵と沖縄の人との間に産まれたアメラジアン。アメリカでも日本でも沖縄でもなくベトナムの戦場に送られる人達。Coccoが写真エッセイの中でアメラジアンが優しい沖縄の人から受ける迫害、だけど事実として米軍の犯罪が沖縄を苦しめているYESかNOの二択では分けられない複雑さを綴っていたように、中立気取りの傍観者にならず本当に複雑なことを描こうとしている。そして本作は沖縄返還50周年の年に公開された映画。そんな節目に歴史を描くのなら政治的にならざるを得ず強い態度を感じる。政治から逃げた腰抜けNHK朝ドラなどとは違う。

今まで真面目なことばかり書いていたが、コメディとしてのエンタメ要素もよく出来てる。伝説のロックシンガーの孫でありながら楽器が弾けない翔太が作詞の才能だけはあると思ってて、当時はないラップを武器に1972年のロックシーンに挑むのはBTTFを想起させる。決められたスタイルに従う必要はない。「弾けないなら歌え。歌えないなら踊れ。踊れないなら聞け。」発想は自由だ。自分のやれることをやれば良い。翔太が全然祖父の才能を引き継いでいないのは実はハルとは血の繋がりがないから。それなのに体と時を入れ替わるほど魂が通じ合っていることの意味。悪き血統主義の世襲ジャパンに響くぜ!楽曲は本当に当時の沖縄で人気バンドだった紫の提供曲。普通に70年代洋楽と思ってた。疾走感ある編集やファニーなタイムスリップ演出とビジュアル的にも面白くて、少しセンチメンタルが強い時もあったが全体的に良いものを見れた。