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決戦は日曜日のsomaddesignのレビュー・感想・評価

決戦は日曜日(2022年製作の映画)
4.0
汚さを内面化して、当然のこととしちゃってる人にこそ響くべき


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ある地方都市。強固な地盤を持つ衆議院議員・川島昌平が脳梗塞で倒れ、政界引退を余儀なくされる。後継候補選びで意見の調整がつかず、折衷案として白羽の矢が立てられたのは川島議員の長女・有美だった。世間知らずで自由奔放だが、政治を変える熱意だけはある有美。彼女を当選に導くべく奔走する事務所と秘書・谷村なのだが……。

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ポリティカルコメディは笑うに笑えないくらいが誠実でいい。
「新聞記者」のシリアスさと、「記憶にございません」の嘘みたいな
選挙にまつわる狂騒を笑うんじゃなく、秘書を主人公にすることで「そういうもの」として諦観しちゃってる日和見主義と、理想に燃える奔放な議員候補の生むズレを笑いにしてる。

当初の構想では、秘書の日常業務風景を多く取り入れる予定だったが、実際の出来事をパロディとして入れる方向にシフトチェンジ。仕事ぶりを説明的に描くより、事実の方が滑稽だし、それに振り回される日常の方がコミカルになるという判断なのかしら。


坂下雄一郎監督作は「東京ウインドオーケストラ」しか見たことないけど、日常の延長にあるズレをコミカルに捉える作風のイメージ。
5年の歳月をかけたという脚本は、皮肉が効いていながらも冷笑的な諦念の視点で描かない。誰もが問題があると知っていて、日に日に悪くなってくのを分かってて、目を逸らしてその汚泥を飲み続けてる。もうどうしたらいいのか分からないので、笑うしかない感じ。当事者意識を持つにはしんどすぎるが、大上段に構えてシリアスに語るんじゃなくて、浮世離れした世界の日常風景に笑いを見出すのが上手かった。

上下位置関係を登場人物たちの関係性に盛り込むの上手。上のものに代わって、下のものが当然のように汚れる。立ち位置は下なのに、上の人を「どうせ」と小馬鹿にするシーン。目上のものを下に見て、腰は低いのにすごく怖い提案で脅すシーン……。政治的欺瞞や虚飾を当然の日常として描くことで異様さが際立つ作り。

モチーフになった事件や発言が連想できればより楽しいけど、現実に立ちかえるとやっぱり笑うに笑えない。進次郎構文は誰がどう演じても「ちょ、何言ってるかわかんないす」に尽きて笑ってしまうけど、現実では大臣までなった人がホントに言ってたことだと思うと暗澹たる気持ち。言ってる内容より雰囲気が大事って政治の世界以外にもありがちだし。


秘書・谷村演じた窪田正孝。腰は低いが、擦れ者の若手秘書にしちゃあカッコ良すぎる気もするし、もっとこうサイズの合わない吊るしのスーツとか着てて欲しい。ジャストサイズのスーツや、カッコ良すぎる細マッチョなスタイルの良さが隠しきれないのも楽しい。運転する時だけぶっとい黒縁メガネかけるのも萌ゆる。

宮沢りえが演じた有美のモチーフは蓮●さんだろか。年齢や出馬の経緯を考えれば小渕●子議員っぽいけど、佇まいやファッションは蓮●さんや豊●真由子元議員ら色々混ぜてる感じでオモロイ。奔放すぎて嫌悪感が湧きそうなキャラなのに、真面目で不器用が故に暴走しちゃう人に留めて、ギリギリ愛せるキャラに見せちゃう宮沢りえ力がスゲエ。

事務所スタッフは皆印象的だけど、中でも最古参秘書・濱口を演じた小市慢太郎。見本帳から貼り付けたような笑顔が、まーーー怖い。腹の底が全然見えなくて、感情的に振る舞って尚正体が見えない。腰だけは低い人間が醸し出す独特の凄みがジリジリ染み出てて恐ろしい。うっかり恨みを買おうものなら、三代先まで呪ってきそう。

少ないながらも印象的だったフード描写は有美がコーヒーを事務所スタッフに所望するくだり。出されたものに手をつけないのは「拒絶」の描写。さらに次々と注文をつけることで、相手が自分を理解してくれていないことへの苛立ちだったり、決定的に相手への嫌悪の表現として機能してる。一度出されたものを安直に否定しちゃえる有美のお嬢様っぷりも透けて見えて、あの一連のシーンすごい好き。


それにしても、あの映像流出は党本部から調査されたら谷村君はマズイのでわ。犯人すぐバレそうだし、バレてなくても誰かが責任問われるはず。あの後待ち構えているだろう辛苦を思うと気が滅入る。有美にしても「あえて」じゃない、素の発言がまあまあヤバいので、早晩口が災いして失脚しそうな……。


2本目
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