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セールスマンのEhrvmのレビュー・感想・評価

セールスマン(1969年製作の映画)
5.0
こういう題材だと、批判的に撮ったり、そうでなくとも批判的に見られるように仕向けたりしちゃうが、ポールにとって辛い方向に物語映画のように展開していくこともあり(撮影や編集も物語としても見られるように組み立てられている)、なぜだかポールのことが好きになる(買う気がないならなんで教会で名前を書くんだ?というツッコミは確かに)。間延びビートルズをかける夫や、雪で遊ぶまったく関係ない子どもたち、迷子のポール、スピードの出し過ぎをめちゃくちゃ心配する家族との電話での困り顔、会合でのみんなの表情やセールスを受ける人の深刻な表情、トラックが通って風で跳ね上がるトランクなど、本人たちやなんなら観客もほかごと(資本主義とは、宗教とはみたいな考えごと)に没入して気づいていない、またはコントロールできない一瞬の仕草や表情や出来事を撮るというのは一貫してる。世界は人が意識できる以上に広く、ポール自身も本人がたぶん思っている以上に魅力的で、そこを見事に捉えている。そんな些細な瞬間が、思いがけず資本主義や宗教といったものに観客の頭の中で接続し、迫真のシーンとなる。だるだるになるまで煮込まれたようなアレンジ版「イエスダデイ」が、資本主義と宗教が結びついた果ての人類の終末を顕にする。
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