shibamike

サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)のshibamikeのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

50年、埃を被っていたらしい幻の音楽フェスの記録映像。黒人差別の為に存在を闇に葬られていたのか何なのか詳細はわからないけれど、マヘリア・ジャクソンの絶叫を目の当たりにし、その凄絶さに言葉を失った。どれだけの苦しみと悲しみがあの咆哮に込められていたのか。このフィルムが闇に葬られていたらそれはそれでフェスに参加し、当時を生きた差別に傷つき抜いた黒人の人達のみの心の支えとなって、こんな21世紀のファッキン記録文化の餌食にならずに済んだのではないだらうかとも思った。自分なんかが鑑賞して良いのだらうか?とビビるほどの凄絶さだった。
 しかし、本作は解禁された。ファッキン21世紀人らしく本作を鑑賞し、見れたことを感謝するだけである。
あーりがとーさーん(坂田利夫)!


1969年、夏。
ラブアンドピース。ウッドストックの興奮から160kmほど離れたニューヨークハーレムにて開催された黒人がメインの音楽フェス「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」。数日間の開催で多数のミュージシャンが出演し、観客動員も30万人(しかも無料!)にのぼる巨大フェスだったにも関わらず、このフェスは歴史から黙殺された。そして、フェスの内容が50年の歳月を経て、映画として陽の目を見ることに。

作品としてはミュージシャンの演奏シーンばかりでなく、当時のアメリカののっぴきならない状況や時代背景もたくさん挿入されていて、ずっと音楽でノリノリにノリまくっているやうな構成ではなかった。フェスの演奏や音楽をきっかけに公民権運動、黒人の境遇にもしっかり関心を向かせるやうな作品に見えた。

自分は恥ずかしながらほとんどの出演ミュージシャンを知らなかった。
しかし、演奏シーンはどの演者も凄まじく、誰が凄いというか、本当に全員凄かった(映画に出ていたのは特に凄いミュージシャンばかり選抜されていたのであらうけれど)。
 個人的にはB.B. KING(超絶ギター)、ステイプル・シンガーズ(親父っさんのギター渋い)、デヴィッド・ラフィン(マイガール)、グラディス・ナイト(悲しいうわさってC.C.R.はカバーだったのね)、ソニー・シャーロック(爆裂ギター掻き鳴らし)、スライ&ザ・ファミリー・ストーン(トランペット女がイカす。ドレミファソラシド!)、ニーナ・シモン(イヤリングがクソデカい)あたりは劇場の座席に座っていても身体がびんびんにリズムに乗ってしまって大変だった。劇場内ゆらゆら揺れている人結構いたけど、じっとしてらんないよこの映画は。
 出演ミュージシャンのジャンルというか何と言うか、結構ミクスチャー系が多い気がして印象的だった。ステイプル・シンガーズはゴスペルとブルース。スライ&ザ・ファミリー・ストーンはサイケとソウル。5thディメンションはR&Bとポップス。他にもラテンやジャズなんかを取り入れた音楽もあり、さういう柔軟な音楽性がおおらかさに繋がったりしているのかもなんて思った。

劇中で大学初の黒人学生として入学し、差別を受けたけどニーナ・シモンの歌のおかげで乗り切ったと黒人女性が話す感動的なシーンがある。
YouTubeで公民権運動の動画を見ていたら、映画の約十年前、1956年頃には映画とは別の大学に初めて黒人として入学するも差別のため退学に追いやられた人もいたさうである。
無惨に殺されていった人、理不尽に権利を剥奪された人、残酷に尊厳を踏みにじらられた人、さういう黒人の人がたくさんいて、その上でのマヘリア・ジャクソンの絶叫を思うと、いたたまれない気持ちになる。
「差別」という言葉は数十年前まで(最近じゃん!)悪いことと思われていなかった。この事実が衝撃である。

かういう「黒人のフェスだから」ということで歴史から無かったことにされたイベントやフェスの記録というのは多数あるのかも知れないのでせうね。
「このフェスはコンクリートに咲いた1輪の薔薇だ。」
肌や瞳には色の違いがあるけれど、人間のソウルは無色だと信じたい。


フェス三毛 魂の一句
「フジロック 波物語 永遠に」
(季語:物語→海物語→パチスロ→地獄→冬)
shibamike

shibamike