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親愛なる君へのsnowwhiteのレビュー・感想・評価

親愛なる君へ(2020年製作の映画)
4.5
まさかこんなにいい映画に出会えるとは思いませんでした!!

台湾巨匠傑作選2023にて他の作品が観たくて映画館に行ったけど満員御礼で入れず、せっかく来たのだからと次の時間帯の🎦親愛なる君へを観ました。素晴らしい映画でした。何よりも脚本が秀逸。そして役者さんの演技がいい。胸を打つストーリー。

亡くなった同性パートナーの家族(母と子供)の面倒を見る主人公。母が急死し主人公に殺人の疑いがかかる。

彼はいい人なのか悪い人なのか全く分からぬまま、時系列もバラバラに1つずつ明らかになってゆく。真実が明らかになる度善人か悪人かが引っくり返るので目が離せない。本当に面白かった。こういういい脚本には中々お目にかかれない。




(ネタバレあります。)


ジェンイーはピアノ教室で教師をしている。彼にはゲイのパートナーがいたが今はもう亡くなってしまった。彼は血も繋がらないパートナーの子供と母の面倒を見ている。彼が本当に誠心誠意世話をしてるのが分かるシーン。子供も懐いている。


(刑務所)
牢屋から出された主人公が裁判に連れていかれるシーンから映画は始まる。


(警察署)
パートナーの母が急死しパートナーの弟が警察に呼ばれて遺体を確認。傍らに主人公。


(家)
遺体確認の後パートナーの弟と家に帰ると弟は主人公ジェンイーに「当然君は出ていくんだろ?」と話し掛ける。

ジェンイーは「出ていかない。ヨウユー(子供の名)は僕の息子だ。」実は母の急死の前日養子縁組の手続きが完了した。

夜になり弟はいそいそと金庫の確認。家や土地の権利が譲渡され9才の甥っ子ヨウユーの物となっていることを知る。弟は母は殺されたかも知れないと警察に届ける。


(警察)
警察に連れていかれ取り調べを受けるジェンイー。「何故パートナーが死んだ後も母親と子供の世話をしていたのか?」と問い詰められる。合間合間に過去の映像が挟まれジェンイーが食事を作ってやり病気の母の介護や子供の世話を甲斐甲斐しくしていたことが分かる。


ジェンイーはいい人に見えるがひょっとしたら殺人者なのかも知れず全く読めない。

時系列はバラバラに一つ一つ真実が明かされていく。その度に観客の想像を覆す。



(取調室)
「何故パートナーが死んだ後も母親と子供の世話をしている?」と刑事。

「パートナーが死んでも家族の面倒をみるのは当然じゃないですか?あなたは僕が女性でも同じ質問をしますか?」

このジェンイーの言葉に凄くグッと来ましたね。

女性(嫁)は世話をして当たり前というのが世の風潮。でも男性が家族の面倒みるのは当たり前じゃない?

女性が親の介護をするのは当たり前だか男性は知らんぷりという世の風潮に対する風刺のようでもあるのだが、彼のパートナーに対する愛情の強さのようなものを感じました。いいセリフだったと思う。観客はジェンイーが素晴らしい人に思えて共感する。

しかし、暫くして別の取り調べシーンでは、ジェンイーが麻薬を買っていたことを追及されている。

「売人は捕まったよ。君に売ったという証言は取れている。しかも買ったのは母親が亡くなる前日だ。何故麻薬を買ったんだ!沢山飲ませて殺したんだな?」

えぇーっ?!麻薬を死ぬ前日に購入してたのー?やっぱり殺人者なのか?

新しい情報が出る度にいい人か悪い人かひっくり返る。

彼はいい人なのか殺人者なのか?全く分からぬまま時系列バラバラに1つずつ真実が明らかにされていく。真実が明らかになる度、観客の想像を越えるので目が離せない。

パートナーの弟が金庫を開けて主人公を疑った時からこの弟が悪者だと思っておりました。

兄が死んで母と甥っ子を面倒見なければいけなかったのはあなたでしょ?あなたこそお兄さんが死んでも戻って来なかったくせに、母が死んだら遺産目当てで戻ってきたじゃないっ!この悪党が!銭の亡者め!


(ピアノ教室)
子供を教えるジェンイー。母親が子供を迎えに来てジェンイーに田舎に行ってきたお土産を渡す。とても好意的。


(取調室)
取り調べを受けるジェンイー。中々帰して貰えない。小さなヨウユーは一人ぼっちで暗くなっても帰らないジェンイーを待っている。

(おいっ!ヨウユーの叔父さん、どこ行ったー!やっぱりあなたは金目当てなんだな!)


(家)
やっと警察から解放されてジェンイーは家に帰る。家の中は真っ暗だ。ヨウユーを見つけて「ごめんよーごめんよー。」と抱き締める。


(ピアノ教室)
お土産をくれた生徒の母親は手のひらを返したかのように挨拶もしようとしない。オーナーから首を言い渡される。まだ取調べを受けただけで殺人者と決まった訳ではないのに…。


弟が何故皆の前から消えていたのかもやがて明らかになる。

(回想シーン)
弟は借金をしてどうにもならなくなり兄からお金を借りて逃走。そのせいで兄は家賃も払えなくなり実家に子供と共に転がり込んだ。


(ほら、見なさい。やっぱりあなたが悪いのよね。あなたこそ金目当てだわ!)


(登山。回想シーン)
パートナーが死んだ理由も明らかになる。ジェンイーとパートナーは山登りが趣味でよく2人で登っていた。

その日もいつものように登山をしていたがパートナーの様子がおかしい。どうやら高山病らしい。
ジェンイーは引き換えそうと言うがパートナーは大丈夫と。


【自分の備忘録の為に書いているので、ここから先はラストまでの完全ネタバレです。未見の方は御注意。】







(テントの中の2人。回想シーン)
パートナーが妻と離婚した理由が明らかになる。

パートナーはゲイ故に男性と浮気をしてしまっていたが、それでも妻と子供を愛していた。それなりに3人で幸せに暮らしていた。しかしある日妻に手紙が来て妻の知るところとなり妻が出ていってしまって離婚。
「子供から母を奪ってしまったことだけが後悔だ。子供に申し訳ないことをしてしまった。」
「あの手紙は誰から来たのか?」とパートナー。バートナーはもう死にかけており意識も朦朧としている。



(ジェンイーの過去の回想シーン)
手紙を書くジェンイー。パートナーを愛するあまり妻に嫉妬したのだ。その時の彼の表情が怖い。いつもの穏やかな彼とは別人だ。


俳優さん、上手いなあ。要所要所で違った表情を見せ、本当に彼がいい人なのか悪い人なのか分からず観客を惹き付ける。


(テントの中)
パートナーの高山病はどんどん酷くなりもう命の炎が消えそうに。

パートナーは
「一つだけお願いがある。子供から母を奪ったことを後悔している。僕が死んだ後子供と母を頼む。」と言う。

「そんなこと言わないで。君は僕と一緒に帰るんだ。一緒に子供の面倒を見よう。」

パートナーは首を振り、「頼む…。」

ジェンイーは泣きながら
「分かった。約束する。リーウェイ!リーウェイ!死なないで!!」


色んなシーンが順不同で挟み込まれながら徐々に真相が明らかにされていく。


パートナーが死ぬ間際に母と子供の世話を頼んたのでジェンイーがずっと面倒を見ていたこと。ジェンイーにとってパートナーは掛け替えの無い人だったこと。とても愛していたこと。

愛する人の家族だから血の繋がらない子供と母を家族として大事にしていたこと。

母が病気で物凄い痛みに耐えていたこと。痛がる母を夜も寝ないで看病し身体をさすってやったりしていたこと。

あまりの痛みに耐えかねてお母さんが死にたい、死なせて欲しいと何度も頼んでいたこと…。


この後取調べ及び裁判のシーンに戻ってゆく。


(検察)
ジェンイーは取調べを受けても「私は殺してません。何も知りません。」何も語ろうとしない。

ところがある日急に「僕がやりました。殺したのは僕です。」

刑事は動機を尋ねるが釈然としない。



(麻薬取引の回想シーン)
お母さんがあまりにも痛がるので痛みを緩和するためジェンイーは麻薬を買いに行った。違法な麻薬を手に入れるためのジェンイーが払った犠牲は計り知れない。(大金を払っただけではない。売人のセックスの相手をしなければならなかった。)


(家)
その薬を買って帰って家に置いておいた。ジェンイーが居ない時にお母さんが苦しみだし孫が薬だと思って量も考えず麻薬を飲ませてしまったのだった。


(最初の裁判のシーンに戻る)
ジェンイーは殺人罪で有罪となる。服役。


孫は叔父に引き取られた。あのとんでもない金の亡者の父の弟だ!甥が子供なのをいいことに家も売ってしまった!

(その家はおばあさんが孫に生前贈与したんだよー!性悪の次男が勝手なことをしないようにねー。次男、あんたの事だよ!金の亡者の性悪の弟。兄を地獄に突き落としただけでは足りずその子供まで突き落とすのかいっ!)


(孫が真相を検察の人に話しているシーン)
このシーンが時系列で判決の前なのか後なのかが私にはよく分からなかった。

判決の前だとすると、孫から真相を聞いているにも関わらず検察は起訴を取り下げなかったことになる。

自身の威信に関わるからか?殺したという自白があったから強引に有罪に持っていったのか?でも子供をかばっているからに決まってるのに…。

そもそも子供に殺意はなく事故でしょ?

それとも子供がジェンイーを庇うため嘘をついてると判断したのか?


逆にあのシーンが判決後を描いてるとしたら、ジェンイーが有罪になったことを知った子供がジェンイーを助けるために名乗り出たのか?

判決前なのか後なのかよくは分からなかったが子供がジェンイーを救おうとしたことだけは確かだったので嬉しかった。本当に愛情を持って育ててくれていたジェンイーに懐いていたものね。


(8年後)
服役を終えピアノ教師をしているジェンイーの元に一通の手紙。子供からの手紙には「会いたい。」と。Fin


本当に良くできた脚本でした。サスペンスのようであり、愛の物語でもあり泣けました。いい映画(脚本)を有難うと言いたいです。



(余談)
🎦親愛なる君へを観た同じ映画館に前の週に🎦1秒先の彼女を観に行った。平日の映画館の館内は男性ばっかりで女性は私ともう1人の方がいただけでした。

映画が終わってトイレに行くと彼女と私だけだったので声をかけました。「面白かったですね!」と。

2人で多いに盛り上がって別れたのだが、翌週同じ映画館で🎦親愛なる君へが終わった後トイレで並んでいると後ろから声をかけられ振り向くと何と先週お話した方でした。

「今日のも良かったですねー。」と2人で盛り上がったのは言うまでもない。

後で連絡先を交換すれば良かったと後悔しました。あれ以来映画を観に行く度にまたお会い出来るのでは?とキョロキョロしてしまいます。
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