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つげ義春ワールド ゲンセンカン主人のHALのレビュー・感想・評価

3.9
冒頭のいつの間にかニ階に住み着いた貧乏四人家族の子供二人が一階の佐野史郎のところへ来て南瓜の煮付けを食べ過ぎて吐きそうになるシーンから面白い。その奥さんの鄙びたエロスを見ていて山本直樹の漫画も思い出した。そうか、日本のサブカル漫画(というよりもガロ系?)の直系だもんな。ねじ式よりももっと大胆に、オムニバス形式のように佐野史郎がつげ漫画の中に入ったり出たりする浮遊感が良い。佐野史郎のどこまでも現実のようでふわふわしてるような存在感がハマっている。この前観た『インスマスを覆う影』も素晴らしかったけど、佐野史郎ってホラーとかシュールとの相性が完璧。

同じく石井輝男監督の『ねじ式』を先に観たせいもあるけど、時代的にはより古い作品であるはずの『ゲンセンカン主人』の方が「新しく」見えるのはなぜなんだろう。あと、映像化されたつげ義春作品に触れるたびに忘れていたようで覚えている場面が沢山あることに気づく。やはり白眉は中盤の表題エピソードで、ゲンセンカンがはじめて現れるシーンの天狗の面から玄関へのカメラが荘厳だった。こうしてみると、やっぱり浅野忠信は若過ぎたというか、全然枯れてなかったのかも。

後半は貧乏な男と女のロードムービーとなり、気まぐれな女性に翻弄される佐野史郎が非常に魅力的。だんだん佐野史郎の存在感自体がつげ義春作品的な放浪者として板についていくようで、あのズル〜いラストもかなり気が利いている。いや、最後に〇〇〇〇を出すのはどう考えてもズルいよなぁ。あと、これは割とどうでもいいところなんだけど、杉作J太郎ときたろうがコンビのように出てくるともはやそもそもつげ義春的世界(ガロ的世界?)の住人がわざわざ映画の世界に侵食してきたみたいで笑ってしまう。妖しい世界から怪しい人たちへの綱渡り。そう思うと二階の窓から一家揃ってこっちを見ているラストの換骨奪胎も粋な終わり方かもしれない。
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