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つげ義春ワールド ゲンセンカン主人のhorahukiのレビュー・感想・評価

3.7
つげ義春の漫画を原作にした四編からなるオムニバス。ホラータグつけてますが、ホラー的演出があるのは表題作の『ゲンセンカン主人』のみです。


一話目『李さん一家』
田舎の古びた一軒家に越してきて悠々自適な生活を送る主人公。隣の寺との境界が曖昧なので、ある日変なおっさん(李さん)が主人公の家の庭に迷い込む。なんやかんやで李さん一家(奥さんと子ども2人)が二階に住み着くようになり…。

いつの間にか浮浪者一家が二階に住み着くというクソ迷惑な話のはずなのに、淡々としてて全く意に介さない主人公の態度が独特でシュールな雰囲気を醸し出してる不思議な作品。


二話目『紅い花』
釣り人の主人公が釣り場を探して山中を歩いていると、山奥で小さな売店の店番をしてる少女を見つける。少女に良い釣り場を尋ねるも詳しくないらしく、友人のワンパクそうな少年を紹介される。少年に教えてもらった釣り場で釣りをしていた主人公だったが…。

少年と少女の甘酸っぱいラブストーリー。
本作の主人公は、主人公と言いつつもこの2人のやり取りを見届けるだけの存在で、言ってみたら観客と同じ立場。大人への第一歩を踏み出した少女とそれを見守る少年の言葉に出さない恋心が歯がゆくなるお話です。


三話目『ゲンセンカン主人』
老人だらけの鄙びた街にやってきた主人公。駄菓子屋のお婆ちゃんに、主人公がゲンセンカンの主人と瓜二つだと言われる。ゲンセンカンとはこの街にある宿屋のこと。彼は突然この街にやってきて、ゲンセンカンに泊まり、急に主人になってしまったらしいが…。

ホラー的演出が冴え渡る傑作。
冒頭、主人公が訪れた街の暗くて不気味で日本風な退廃的な雰囲気がツボ。その後もひたすら不気味な空気感を貫いている。本作のほとんどはゲンセンカン主人がいかにして宿の主人になったのかを描く過去話で、言葉で表すと大したことないことないのに、この世の出来事ではないような、異世界の出来事を覗き込んでるような気分にさせられる素晴らしい映像作品になっている。人間の内に秘める獣性が引きずり出されたかのような暴力性だけでなく、天狗のアイコンにより、人を超越した神聖性とか神秘性をも醸し出してる。獣と神という、ある意味では相反するものを同時に表現しきった演出が素晴らしい。


第四話『池袋百店会』
行きつけの喫茶店で仲良くなった男に誘われ「池袋百店」という本を発刊することになった主人公。それは、池袋にある商店を百店紹介し店から広告料をもらうという企画。営業のプロを雇い、メンバー5人で池袋の店を片っ端から周り始めるが…。

主役がつげ義春本人を思わせるような人物でありながらも完全創作となっていて、これまた不思議な雰囲気のある作品。貧乏人たちが一発当てようとやる気になりつつも現実はそう甘くはなく…。夢を見るも挫折し悪い方向に転がっていくという青さを感じるリアリティと貧乏アパートや下町を舞台にしてるが故の昭和の空気感がノスタルジーを感じさせて、何だか心地よい作品でした。


つげ義春作品は全く読んだことがなくて、ジャケに書いてある「幽霊ではありませんか」の言葉だけでホラーだと勘違いして借りた作品でしたが、予想以上に面白かったです。しかも『ゲンセンカン主人』はガッツリホラーの雰囲気だったので、借りて正解でした♫
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