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つげ義春ワールド ゲンセンカン主人のmohedshotのレビュー・感想・評価

3.4
つげ義春本人曰く、あまりの貧乏や苦労は果てにシュールに転じるのだそうだ。そういや、佐野史郎は幸薄くアンニュイな素晴らしいつげ顔だった。石井輝男はその後も浅野忠信主演で「ねじ式」を撮っているが、彼もまたなかなかの幸薄いアンニュイなつげ顔であり、両者共に零落の果てのドサクサにチャッカリ時化た運気を見出しそうな、そんな線は細いが断じて途切れぬ図太さと生きる力を感じる。

つげ作品の概ね全てが作者本人の苦労奇譚ともいうべき、やるせなさの陰性から転じたシュールの果ての世界観であり、タイトルのゲンセンカン夫人も、およそ全てを失ったいい加減な男が果てにたどり着いた、何故か子ども帰りした老婆しかいない死人のような町に佇むあばら宿の夫人を、「天狗のお面」一つでよろしくして、そのまま居着いてしまうという、ちゃっかりで笑える話。そんな、人生知らぬ間に死中に活を見出す、自堕落でも何故か生きて行く人々の人間模様。昭和30年代の信州の田舎風景の美しさにも見とれた。
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