ゼロ

成れの果てのゼロのレビュー・感想・評価

成れの果て(2021年製作の映画)
3.2
姉が婚約したのは、絶対に許せない男だった。

事件の本質よりも、村社会の閉鎖的な状況を上手く映像化しているな…と感じました。調べてみると、原作は舞台作品。確かに河合家でトラブルが起きていましたが、言われないと気付かないレベルです。

邦画作品では珍しく、過去にあったトラブルを映像として一切描いていません。主人公の河合小夜が、過去に強姦される事件があり、地元を離れていたが、姉のあすみが加害者である布施野光輝と結婚する…というところから物語が始まります。

邦画作品でよくある観客に状況を説明するような台詞もないのですが、序盤から小夜は、過去に事件があったのだな…とは想像がつきます。最後までみても、全てを理解したとは言えませんが、それぞれのキャラクターが喋ってくれるので、全貌を掴むことはできます。

舞台のキャッチコピーが「不幸や絶望はもういらない。わたしは幸せがほしい。」。登場人物が利己的に動いているのですが、その生々しさは映像や音楽で誤魔化すことなく、演技で表現するのでリアルでした。

被害者を永遠に擁護し続けなければいけないのか?という問題があると思うのですが、布施野の会社の同期である今井が「一生付いてまわんだよ!利用しろ!」とゲスい言葉を放つのが、モラル・ハザードしていて爽快でした(笑)

村社会だから噂は秒速で広がる。それ故の閉塞感があるというのは、作中の弓枝が、結婚して地元をして離れたいという希望からあったりしますが、最後のあすみと雅司の場面が如実に表れていました。

あすみの恋人である布施野は、小夜と共に生活をすることを決めました。雅司はそれを聞きつけ、あすみに告白をするのですが、あすみは「同情するな」とブチギレします。これまで相手の言葉を肯定し、聞き分けの良い女性を演じていたのに、急に格下の相手から告白されたら、怒り狂う。この場面は、狭い村社会では選択肢はない。しかし、その相手を選ぶくらいなら孤独を選ぶという現代の日本の闇を見事に表現していました。

81分という短い作品ではありましたが、登場人物の心情を想像させる演出となり、主演の萩原みのりさんを始め、演技が良く、心掴まされた作品でした。
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