ヒロオさん

カウラは忘れないのヒロオさんのレビュー・感想・評価

カウラは忘れない(2021年製作の映画)
4.0
第二次世界大戦中のオーストラリアで起こった日本兵捕虜の集団脱走事件「カウラ事件」のドキュメンタリー。本作は、カウラ事件の生存者、関係者に対するインタビューで構成される。

・カウラ事件とは?
史上最大の捕虜収容所脱走事件。目的は逃亡ではなく、脱走時に射殺されることだった。約1100名の兵が参加し、約200名が亡くなった。
シベリア抑留とは異なり、収容所の生活は「天国」だった。それにも関わらず、集団自決が起こった背景には、「捕虜を恥」とする「戦陣訓」の美徳があった。恥を背負ったまま、日本には帰れなかった。
事件前夜、脱走の賛否を巡って、兵士らは○×投票を行った。「生きて家族の元へ帰りたい」との思いから、脱走に反対(×)した者もいたが、その声はかき消された。脱走に賛成した生存者は「そうするしかない雰囲気だった」と語る。集団主義、同調圧力のメンタリティが窺える。

正直、語り継ぐことの難しさを非常に感じた。カウラ事件について学ぶ高校生が、生存者に対して「生きて帰ってきてくれて良かったです」と言う場面があった。ぶっちゃけ、私が体験者でこの言葉をかけられたら、「あぁ、伝わらないんだな…」と思うだろう。
「今の美徳=生きること」である。今の価値観しか知らない人は、カウラ事件は集団主義のメンタリティが起こした間違いだったと思う。この高校生も「カウラは間違いだった」という前提で話している。
しかし、生存者からすれば、「カウラは間違いだった」「生きてて良かった」なんてなかなか言えないのではないか。仲間の死を無駄だと言うようなもので、申し訳が立たない。
今の価値観しか知らない高校生。戦時中の価値観から、今の価値観への変遷を経験した生存者。この視座の違いは到底埋められないように感じた。
高校の先生が「自分がその場にいたら、反対できるか?」という問いを立てていたが、この問い自体そこまで意味を持たないんじゃないかと思った。問いの行き着く先は、「私も反対できない」で終わる気がする。どういう条件下なら、同調圧力を緩和できるかを考える方が建設的であるように感じた。

10年かけて作られた本作は、カウラ事件の今を知らせる素晴らしい作品だった。是非ご覧くださいませー。
ヒロオさん

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