虎舞羅ーコブラー

屋敷女 ノーカット 完全版の虎舞羅ーコブラーのレビュー・感想・評価

屋敷女 ノーカット 完全版(2007年製作の映画)
4.7
「クリスマスの夜、妊婦を襲う血の惨劇。ハサミを手に持ち、胎児を執拗につけ狙う女は何者か?この真実から、決して目を背けるな…。」

劇場公開から約二ヶ月、U-NEXTにて先行独占配信が9月30日〜11月29日まで開始との速報を聞きつけ、早速鑑賞。レンタル料は1100円分のポイントと少々お高めでしたが、映画館で観れなかったので鑑賞料と考えれば安いものです。実際、1100円払う価値のある作品でしたから。

この作品を一言で評価するなら、「これ以上無い残虐さと恐怖感で描く、対照的な生と死の美学」ですね。
本作で四大フレンチホラーは全制覇しましたが、やはり四作品の中でも突出した流血・残虐描写が印象的な作品でした。「マーターズ」の残虐描写を“精神的苦痛になる痛み”とするなら、本作は“本能的に拒絶してしまう、五感を刺激する痛み”だと言えると思います。
まず他作品と大きく違うのは、狙われるのが“出産間近の妊婦”であるという事。私たち人間を含め、哺乳類であれば母親から生まれてくるのは周知の事実でしょう。ですから私たちは、妊娠している女性を見ると「何かお手伝いできるかな?」と思うなど、本能的に対象への防衛反応が起こります。ですが本作では、そんな生物の本能を逆手に取り、徹底的に妊婦を追い詰めていく様を見せていきます。恐らくこれが何もハンデを持っていない主人公であれば、ただ残虐描写に力を入れているだけの作品になったかもしれません。ですが妊婦という設定を入れることによって、この上ない恐怖感と嫌悪感を本能的に感じさせる作品に仕上がったのだと思います。
そして“五感を刺激する恐怖表現”も見事。
痛々しい刺し傷や抉られた傷、そしてそのおぞましい犯行を映し出す視覚的恐怖。ここぞという残虐場面で流れる、耳を貫くギィーと引っ掻く様な効果音で恐怖感が倍増する聴覚的恐怖。傷跡から大量に流れ出る、赤黒く生々しい血液の匂いが想像出来てしまうかの様な、嗅覚的恐怖、そして血のドロドロとした感覚を感じさせる映像からくる触覚的恐怖。その全てを刺激するかの如く、鮮烈でショッキングな映像が続きます。
またノーカット完全版という事もあり、R18+の名に相応しい残虐描写に仕上がっています。旧日本公開バージョンを観ていないのであまり詳しくは分かりませんが、皆さんのレビューを観ているとほぼラストのようですね。むしろあれはモザイク入るのも納得のレベル。そして壮絶な決着からの余韻を残すラストカットも印象的でしたね…。
私はこの作品で"胎児"という生の象徴と、それを狙う謎の女が繰り広げる惨劇、つまり"死"を象徴する事柄を絡めながら、主人公が自分の子を守ろうとする母性から立ち向かう女性の強さ、そして生死の狭間にある者の命の美しさを表現しようとしたのではないかと思いました。これは四大フレンチホラー全てに共通していて、強い女性を描く事で“世の女性へのエール”や、従来の“女性は弱い”という偏屈的な考えからの開放というメッセージ性を秘めているのではないかと。同じフランス史で例えると、私がフランス史で一番好きなジャンヌ・ダルクのようなイメージ。自分たちの自由を勝ち取る為に、旗を掲げ自ら兵士達の先頭に立ち指揮を取るような人物像。そんなものを四作品を鑑賞している中で感じましたね。

✨個人的四大フレンチホラーランキング✨
一位:「屋敷女 ノーカット完全版」
二位:「マーターズ」
三位:「フロンティア」
四位:「ハイテンション」
全て見終わってみると、どれもホラー映画史に刻まれる名作でした。まだ観ていない方は、ドキュメンタリー映画「BEYOND BLOOD」も併せて観ることをオススメします!
ただ、本作を観る際には細心の注意を払う事を勧めますよ…。💦