がぶりえる

屋敷女 ノーカット 完全版のがぶりえるのレビュー・感想・評価

屋敷女 ノーカット 完全版(2007年製作の映画)
4.6
血塗られた母性

悪魔のような映画。明日出産を迎える女と彼女のおなかの中から胎児を取り出そうとする謎の女の攻防戦。理不尽展開と残虐描写のオンパレード。裂く、撃つ、刺す、抉る、焼く、絞める。容赦無い鮮烈なゴア描写の畳み掛け。怖いもの見たさだけで作り上げた変態的サイコスリラーの怪作ここにあり。

ヨーロッパのゴア描写はアメリカとはまた一味違う。アメリカのスプラッター映画はパーティー感覚的に血祭りにあげる様な悪趣味さがあるが、ヨーロッパのスプラッターは一撃一撃が重たくて鋭い。身の毛のよだつ様な本気の狂気が写し撮られいるのはヨーロッパ的。そして、ヨーロッパのゴア描写は変態的。アメリカホラーにある、ゴア描写によるカタルシスがヨーロッパにはないことが多い。ひたすらに不快さと気持ち悪さと理不尽さを突きつけてきて、ドン底に突き落としてくる。

本作1番の目玉ゴア描写は、やはりラストの階段でのあのシーンだろう。あれはスゴかった。語彙力を失うぐらい痛々しいし、画として完璧にイかれてる。あれほど地獄絵図という言葉が似合う象徴的なシーンは他にないだろう。そのくらいヤバくて痛い。

ラスト良かった。急に、主人公から謎の女視点の物語に切り替わる面白さ。あそこまで主人公をめちゃくちゃにした悪魔の様な女に力技で感情移入させる凄さ。これは狂気じみた母性についての映画だった。大切な存在を亡くした2人の女の空虚な心に唯一残こされた希望こそ主人公の女の胎児だった。「せめて、自分のこの腕の中で我が子を抱いてみたい」という母なる欲望の下に戦っているところは二人とも同じ心理なのが面白い。だから、謎の女の行動もなんとなく理解できるし、「この人も可哀相な人なんだ」という同情する気持ちさえ湧いてくる。不思議なことにね。ショッキングさと虚しさの入り混じった悪魔のラストカットには言葉を失った。