まりてぃ

想像のまりてぃのレビュー・感想・評価

想像(2021年製作の映画)
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「今情景をちゃんと立ち上げてた?」
「はい」
「そっか、でも僕にはそう見えなかった」

数え切れないほどこのやり取りをした。
演劇をかじって分かったことの1つとして、俳優が持つ「想像」を観客へ共有しなければ成り立たないということだった。「私は今2003年の、六本木の風景を立ち上げています、わかりますか?」
当たり前のことのようだけど、それが本当になかなか出来なかった。情景を丁寧に立ち上げられていない時、無意識でも予め立ち上げようとしてしまった時もなぜか演出家には全部見事にバレる。(予め立ち上げるとはつまり、左側にあのお店があって、目の前にはコレがあって…と演技をする前から台詞の中に出てくる事物を配置してしまうことを指す。)
そして自分の中で立ち上げていても、立ち上げていないように見えると言われる。情景であれ心理描写であれ、どんな想像をしても観客へ共有がなされていないと全く意味がない。それも客席全体へ、満遍なく。
強い演出を付けないタイプの演出家はみんな同じことを言うのだろうか。理想はあれど演出家側も明確な答えを持っていることは少なく、演者は演出家が出す僅かなヒントを元にただひたすらに自分と、自分の役と向き合い続けるしかない。少なくとも私の場合はそうだった。カメラには捉えられていないけど、岡田利規が「ぼくもよくわかってないんだけど」と発言するのを見るにきっと板橋さんもそうだったはずだ。
その向き合う作業には終わりも正解もなかったし、公演終了まで悩み続けた。蕁麻疹が出るほど、人生であんなに自分と対峙した期間は演劇以外だと就活くらいだろう。就活の方がその場凌ぎの嘘をついてしまえるので気楽なくらいだ。その悩み続けた当時の記録が日記として残っている。(さながら何年も前のような書き方をしたが全然今年の話)


2/14
「切実さが足りない」そう言われたのは何回目だろうか。12月末から稽古を始めて、その言葉を言われ続けてきた。
・台詞ではなくト書きをたっぷりと
・目線から逃げない
・遠くの観客にも届くように投げかける
・滑ることを恐れない
・フラフラしない
・話を聞いて!と前のめりな姿勢で
・情景を丁寧に立ち上げる
・常に観客を意識する、舞台上では決して意識を切らない

向いてないのかなと思ってしまう。観劇回数がそもそも片手で足り得てしまうほど少ないからだろうか。それとも私は切実さ、なんてものを元々持ち合わせてないんじゃないか。他人が書いた脚本で、他人の人生や感情を表現すること自体嘘っぱちなんだ。ていうか、私が素人で最初から下手だからどんな演技をしようとも▲▲さんの目には下手に映ってるんじゃないか、そんな気さえしてしまう。他人の言葉を自分の言葉として届けるってなんだろう。いや、でも確かにこの演目において私はまだ切なる思いを持てていない気がする。
本番までちょうどあと稽古は10回。「そんなに言うなら、もういいです、やめます」なんて言ってしまえたら。逃げることは簡単で、もう直向きになるしかない、とは分かっていてもそんな気にも少しなっている自分に嫌気がさす。
他人と比べることも無意味、正解を探すことも無意味。他人と比べてばかりいて、できるだけ誤らないように滑らないように生きてきた自分に果たせるのだろうか。
本番まであと一ヶ月を切った。


2/24
この前の稽古でいよいよ泣いてしまったわけだけど、今日改めて▲▲さんと話してやっと光が見えた気がする。実行し切れるかは別として、と書きかけたが引き受けたからには実行し切るしかない。思い返すと今までの演技に対するモチベはかなり独りよがりだった。私の中での演技は「映画的演技」であったし、「いかに役を自分に近づけるか」が軸で人に何かを伝える、その先の何かしらの感情を抱かせるという意識がすっぽり抜けていた。自分の中の正しさのみを突き詰めていけばある意味純度は高くなるけど、そんなのわざわざ人前で演らずに一人で、部屋の中だけで完結させればいいわけで。お金と時間を使って期待を持って観に来てくれる人たちに対しての責任。同じ演者や▲▲さんに対する責任。演劇経験者は「お客さんの反応を感じて舞台を作り上げていく」ことにモチベを感じるとよく言うけれど、私は人前で演技をしたことがないのでその感覚はわからない。とりあえず今は責任を負うことをモチベにやるのが一番良さそうだ。猫屋敷先生のマインドでやるしかないようです。


3/6
ムカつくーーー!!!!!マジで演劇自体が嫌いになりそう!それくらいボロクソに言われてる!!!!演出家が言語化すらできないものを直しようがない!!!!!のきもち!
マジ稽古泣きすぎてる。私しかボロクソに言われてない。でも今日の帰りに、■■■くんや●●さんに▲▲さんが言ってるような、私だけ浮いてる感じはしないし、▲▲さんの話は話半分に聞いた方がいい、って言われてちょっとだけ救われた。まあ慰めてくれただけなのかもしれんけど。でも▲▲さんに認められること、突っ込まれないようにすることをゴールにしてしまうとそれこそ▲▲さんが求めてる演技とは程遠くなるし自分で自分の落とし所を見つけていくしかない。
明日も明後日ももうずっと稽古。ちなみに来週水曜日には査定面談があるのにその資料さえまだ作れてない。こんな四面楚歌?みたいな状況中々ない。
あーーでも仕事はいいよな、なんだかんだ忙しいの好きだし、正解はなくても最適解に近いものがあるし、やればやるだけ評価してもらえるんだから。エンタメで食ってる人たちほんとすごい。
とにかく私のシーンで寝させるようなことだけは起こさない気合い気合い気合い気合い目線から、客から逃げるな、ちゃんと振る、情景描写立ち上げながらもちゃんと客に振る!!!!!!!おれの話聞いてるかー?!!ってちゃんと振る!!!!!でも友達になりすぎないように!!!!然るべき距離と遠慮を持て!!!!!あーーーーーーーーーー
演技が下手とかそういうのじゃなく、一人でやっているように見えるらしいです。客を無視してるような感じらしいです。伝えるってなんだ?人前でやる意味ってなんだ?舞台わからんわ


3/7
昨日の稽古から、だいぶ良くなってきました………やはり「見る」ことが足りなかったらしい。「見る」ことが出来るようになってくると、他の俳優の演技がさらに面白く感じられる。これは新たな発見だ!
しかし、「見る」ことも「見られる」ことも本当に体力を使う。
今日の稽古の帰り、というかこの日記を書く10分ほど前の話だが、■■■くんと話せて楽しかった。■■■くんは普段話してる時ローに見えるけど、演技をしている時の彼はすごい。なんというか、自由だ。こんなに大きい声出せるんだ!とも思うし、何より演技自体を楽しんでるのが伝わる。稽古毎にアウトプットの仕方を変えてくる。彼の▲▲さん作品への愛故もあるだろうけど、すごく見てて楽しい。演劇は一回一回その時々によって違うからこそ面白いと言うが、一公演の期間の中で何度も同じ演目を観に行くなんてハードルが高い。でも稽古を通じて「そういうことか」とわかってしまった。
まりてぃ

まりてぃ